第18話 待って! ウサギくん!

「あれって――」

 もしかして、フィンくん!?

 犬上いぬうえくんにらせようとしたときだった。

「きゃあ!」

「うわあっ!」

 突然とつぜん通路つうろゆかがぐらぐらとうごはじめた。

 ゆかがかたむいている!? 

 通路つうろはたちまち、とんでもない坂道さかみちになった。

 しがみつける場所ばしょなんかない。

 わたしと犬上いぬかみくんは、元来もときたほうにかって、ゆかをゴロゴロところがっていく。

 あっちこっちにぶつかるけれど、かべゆか天井てんじょうまでもぐにゃぐにゃで、あんまりいたくはない。

 だけど、これはまわる――!

 どすん。

 わたしと犬上いぬかみくんは通路つうろはしっこのゆかに、おりかさなるようにころがった。


「ぃてててて……よかった、もとおおきさにもどったなコウモリ」

「えっ!? ご、ごめんなさい!」

 わたしはあわてて、犬上いぬかみくんのうえからびのいた。

 本当ほんとうだ。からだおおきさ、もともどっている。

 犬上いぬうえくんをペチャンコにしてしまわなくてよかったー。


大丈夫だいじょうぶ!? きみたち」

 あわてているわたしたちのうしろから、だれかがこえをかけてきた。

 フィンくんだ!

 やっぱり、さっきの人影ひとかげはそうだったんだ。

「もしかしてきみたち、ウサギくんったの?」

 フィンくんがかがやかせてった。

「……この地下道ちかどうこう、あたまにウサギみみがついたヤツがいた」

 言葉ことばえらびながら、犬上いぬかみくんがった。

「やっぱり、めなくちゃ」

 フィンくんはそう、つぶやいたようながした。

 

 わたしはすこおどろいていた。フィンくんのこえにはいろがない。

 そのこえは、〝どこまでもずっと透明とうめいなガラス〟みたいにこえた。


「――みちがまたわっている」

 まわりを見回みまわしていた犬上いぬかみくんがった。

 わたしたちがころちて通路つうろが、いつのまにかふたつにわかれていた。

 ふたつのぐちあいだには、真鍮しんちゅうしょくさき案内あんないばん

 右側みぎがわぐち矢印やじるしには、『しろうさぎ』、左側ひだりがわぐち矢印やじるしには……つ、月澄つきすみ佳穂かほ!?

 なななな、なんでわたしの名前なまえいてあるの!?

 ゴゴゴゴゴ

 そのときとおくからちいさい地鳴じなりのようなものがちかづいてくるのが〝えた〟。

「きっと、ここ、またみちわるとおもう! さっきもおなかんじがしたもの!」

 わたしはかんじたままを、犬上いぬうえくんにつたえた。

「ここにいるのは、きっとまずい。移動いどうしよう!」

 犬上いぬうえくんががった。

 

「ボクも一緒いっしょっていい? きみたちといればウサギくんにえるがするんだ!」

 フィンくんが真剣しんけんかおった。

「よし、こう! ……こっちだ」 

 犬上いぬかみくんはすこしだけ、まよったようなかおをしながらみぎぐちえらんで、すすみだした。

 ――み、みぎかあ。

 ホッとしたような、がっかりしたような気分きぶんだ。

 通路つうろすこすすむと、またみちふたつにかれていた。

 案内あんないばんには、みぎが『そとひだりが『しろうさぎ』。

今度こんどはこっち!」

 犬上いぬうえくんがひだり通路つうろはいっていく。

 またかれみち。またまたかれみち

 まるで迷路めいろだ。そのたびに、犬上いぬうえくんはまよわずみちえらんでいく。


 ワナかもしれないのに、どうしてすぐにえらべるんだろう……。

 不思議ふしぎおもって、のぞきんだら犬上いぬうえくんとった。

「こっちから、ウサギのかげとき通路つうろのにおいがするんだ」

 犬上いぬうえくんがはなをひくつかせてった。

 そうか! さすがはオオカミ! わたしは感心かんしんした。


ちかいぞ! をつけろ!」

 つぎかれみちがったとき――これまでとはぜんぜんちがう場所ばしょた。


 なに、これ? かがみ!? 


 かべも、天井てんじょうも、はいるものすべてが、かがみできている。

 自分じぶんはいってきたぐちも、もうわからない。かがみ迷路めいろだ。

 まるで、みなとみらいの遊園地ゆうえんちにあるミラーハウスにそっくりだ。


 うつっているのは、無数むすうわたしコウモリ無数むすう犬上くんオオカミ。 

 油断ゆだんすると本物ほんもの自分じぶんがどれなのかも、犬上いぬかみくんがどこにいるのかも見失みうしないそうだ。

 でも、フィンくんの姿すがたは――どこのかがみにもうつっていなかった。

「フィンくん、どこ!?」

 こえをかけても返事へんじはない。

 いつのにはぐれたんだろう!?

 

    *      *


「ウサギくん! いるんでしょ!? てきてよ!」

『なんでここにるんだよ! ってろ、ってっただろ!』

「えっ!? でもボクは……」

ゆめかなえたくないのかよ!?』

「えっ?」

つよくなりたいんだろ!? だけど、オレがこんなばっかりに……。だからオレが、おまえゆめをかなえてやるよ! オレにはせない。だから、つかまえるのだけは、おまえ役目やくめだ!』

「えっ? ちがう、って! ウサギくん!」


    *      * 

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