第17話 進まぬために、全力疾走!

 たすこしてくれながら犬上いぬうえくんはびっくりしている。

 ま、った! 


「そ、そう。ぃ、いきなりここにれてこられたの……」

 これでいいんだよね? つじつまあってる?

「そうか、わせ場所ばしょけなくて、かえってよかったな……」

 犬上いぬかみくんがつぶやいた。

わせ場所ばしょ?」

山下やました公園こうえんだろ? おまえ運転手うんてんしゅ指定していだぞ!」

「えっ!? 便利べんりさん?」

 いつの連絡れんらくっていたんだろう? いてないよ!?


「ま、早々そうそう合流ごうりゅうできたし、オッケーだな。ところで、月澄つきすみ姥山うばやま――いや、ニワトリともう一人ひとりらないか? おな鳳雛ほうすう制服せいふくている、女子じょし二人ふたりだ」

「ゎ、わたしは、てないわ!」

 ドキドキする。ここは、トボけるくらいしか出来できないよ!


「そうか……。心配しんぱいだけど、あいつはニワトリにたのんであるし……。とにかく、いまはこのダンジョンみたいな地下道ちかどうなんとかしよう! これはきっと、クオリア使つかいの仕業しわざだろうしな」

追撃ついげきしゃ《チェイサー》?」

多分たぶんな」

 犬上いぬかみくんがうなずいた。

 心当こころあたりは――あ、そうか!

 

「もしかしたら、〝ウサギ〟なのかも!」

 わたしはフィンくんのっていた〝ウサギくん〟のことおもした。

「え? おまえなにかたのか?」

「う……」

 ――しまった!

 フィンくんのってたこと、コウモリがってたらおかしい、よね?


「う、うん。み、たのかも……」

「なんだよ、そのたのかも、って? まあ、いい。だけど、もしそうなら、そのウサギをなんとかすれば、みんなここからられるはずだ」

「わかったわ!」

 わたしはうなずいた。

 

「ところで……コウモリ。その……ちょっと、こうをいていてくれないか?」

「え? どうして?」

「いや、あのな……」

 犬上いぬうえくんのかおこころなしかあかくなる。

「その。なんだ……苦手にがてなんだよ。変身へんしんられるの」

 そ、そっか。

 われてみれば、犬上いぬうえくんはまだオオカミの姿すがた変身へんしんしていなかった。

「……ゎ、わかったわ!」

 気持きもちはわかる!

 わたしだけがコウモリに変身へんしんしている――そうおもうと、なんだかとてもはずかしい気分きぶんになったもの。


 わたしが背中せなかけるとあとで、みどりかぜ渦巻うずまいた。

「に、似合にあわねえだろ? おれに」

 犬上いぬかみくんがれくさそうにあたまをかいている。

「そ、そうかな?」

 ロックなかんじの衣装いしょう。キラキラひかるボタンやかざりのついたかわジャンバー。すらっとしたあしえるくろのジーンズ。分厚ぶあつそこのごつごつしたくつ

 たしかにいつもの犬上いぬかみくんのイメージからは意外いがいおもえるコーディネート。

 だけど――似合にあっていないか? とかれると、ちがうようにもおもう。

 

「このカッコ、姉貴あねきのセンスなんだ」

「え? おねえさん!?」

 意外いがいひと名前なまえて、わたしはおもわずこえげた。

「そっか、らねえよな。おれの〝仕立じたて〟をしてくれたのは姉貴あねきなんだ」


 行方不明ゆくえふめいになっているわたしのおかあさん。そのともだちというのが犬上いぬかみくんのおねえさんだ。

 そういえば、おりしている、おねえさんのんでいたという部屋へやたしかにセンスがロックっぽかった。レコードやギターもかざってあったっけ。

 

「ま、いいや! うごきやすいのは感謝かんしゃしているし。ん? ……はしるぞ、コウモリ!」

 きゅう真顔まがおになった犬上いぬかみくんが、通路つうろこうをゆびさした。

 ひとかげ? そのあたまには、二ほんながみみ! 

 もしかして、あれが〝ウサギくん〟!?

  

みどりかぜうずき〟、犬上いぬかみくんがはしした。

 あわてて、わたしもあとをいかける。

 犬上いぬかみくんの能力のうりょくなんだろう、はしっているわたしの背中せなかを〝みどりかぜ〟があとししてくれる。

 すごい! こんなにはやく、はしったことないよ!

 ゆか大理石だいりせきのパネルがビュンビュンうしろにながれていく。

 だけど――

 はしってもはしっても〝ウサギくん〟のところにはちかづけない。

 え!? なんで?

 おかしさにがついたのはまわりの景色けしき

 地下道ちかどうかべにはおな間隔かんかく広告こうこくポスターがられている。

 だけど、すこしもうごいていない。

 っていうか、これ、ゆかだけがうしろにかってうごいている!?

 これじゃ、〝うごかないために、全力ぜんりょくはしっている〟みたいだ。

 それどころか〝ウサギくん〟の姿すがたはどんどん、どんどん、ちいさくなっていく。

「くっそう! なんだってんだ!?」

 はしりながら犬上いぬかみくんがくやしそうにさけんでる。

 わたしはといえば、だんだんはしるのがくるしくなってきた。

 オオカミというだけあって、犬上いぬかみくんのあしはやい。たいしてわたしは、はしるのが得意とくいじゃない。

 むしろ、んだほうはやいんじゃ?

「くっ!」

 そうおもったわたしは、つばさひろげてがった。

 やった! おもったとおり、まえすすんでいる!

「うまいぞ! そのままべ!」

 犬上いぬかみくんをえてわたしは加速かそくした。かべのポスターがどんどんうしろにながれていく。

 まえには〝ウサギくん〟の姿すがたちいさくえている。


 このままべばいつける! とおもったら――

「えっ!?」

 はばたくたびに、つばささき地下道ちかどうかべたってしまう。

 というか、まえすすむたびに通路つうろがどんどんせまくなってる。

「ぅわあっ!」

 もうばたけない。わたしはおもわず着地ちゃくちした。

 天井てんじょう左右さゆうかべも、せますぎて、かがめないとてないくらいだ。


「コウモリ! 大丈夫だいじょうぶか……ってデカっ!?」

 いついてきた犬上いぬかみくんが、うしろでこえげた。

「えっ!? ええええええっ!? ……ち、ちいさい!?」 

 いたわたしはおもわずさけんだ。

 通路つうろいっぱいのおおきさでしゃがんでいるわたしを犬上いぬかみくんが見上みあげている。

「ォ、オオカミさん、ちぢんだ!?」

「おまえがデカくなったんだろ! コウモリ!」

 も、もう、どっちだっていい。

 だけど、こんなかんじのおはなし……ってる!

「これって!?」

「ああ、〝アリス〟だ!」

 犬上いぬかみくんもうなずいた。

 いま状態じょうたいって本当ほんとうに〝ウサギあなちてる〟まるっきり不思議ふしぎくにのアリスだ。

「こ、びんのものどこ!?」

 あるのかどうかもわからない〝ドリンク・ミー〟をさがして、もときたほういたら、地下道ちかどう反対はんたいがわ一番いちばんとおいところにちいさな人影ひとかげえた。

 ウサギみみは――ない!

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