第15話 そうとしか言いようがないよね

「あ、って!」

 わたしたちがおどろいていると、突然とつぜん、フィンくんはしした。

 まるで、だれかをいかけているようなそぶりで、地下道ちかどうこうのほうへ走ってく。

「行っちゃった……」

 あとにのこされたのはわたしたち、三にん

へんだ。誰もいないぞ」

 犬上いぬうえくんがった。

 言われてわたしもあたりを見回みまわした。

 たしかにヘンだ。

 横浜よこはまえき。行きう人のかず日本にほんでもうえから数えて何番目なんばんめか。

 いつもはあまりにも人がおおいので、わたしはこの駅をさけるほど。

 なのに、いまはわたしたち以外いがい、誰もいない。 

「これって……」

 わたしと姥山うばやまさんはかお見合みあわせた。


「もう一度いちど階段かいだんを上ってみよう」

 犬上くんの提案ていあんで、わたしたちはもう一度階段を上がってみた。

「また地下ちか!?」

 ここもおぼえがある。野毛のげちかみち!? またちがう地下道に出た!

 

 三人のあし自然しぜんはやくなる。

 つぎの階段、また次の階段。いくつもいくつも階段をけ上がる。

 駆け上がるたびに違う地下街ちかがい、違う地下道がシャッフルされてあらわれる。

「はあ、はあ、はあ……」

 いきらしながら、次に駆け上がったさきは……元町もとまち中華街ちゅうかがい駅の地下街だった。

 わたしたちの足が自然とまる。 

「ふ、ふりだしにもどった……」


 もしかして、められた!?

 犬上くんは無言むごんだ。

 なにか言いたげだけど、くちに出せない。そんなかんじだ。

べつ出口でぐちさがそうよ」

 姥山さんが提案したので、わたしたちは中華街駅の地下街を反対はんたい方向ほうこうあるはじめた。

 ここもやっぱり、わたしたちのほかには誰もいない。

 こつーん、こつーんと、足音あしおとだけがひびいていく。

 

「え? ……ここ通路つうろだったっけ?」

 地下街の反対がわについたわたしたちは、足を止めた。

「違う、ここはかべになってたはずだ」

 犬上くんが眉間みけんしわせている。

 壁にはおおきなあないている。

 その向こうには、せまいトンネルのような通路がずっとおくに向かってつづいていた。

 

「この感じ、ってる!? 大原おおはら隧道トンネルだ!」

 わたしはおもわずこえを上げた。

 大原隧道トンネルは、わたしのいえからすこしはなれた場所ばしょにある歩行者ほこうしゃ専用せんようみちだ。

「あなた、なんでそんなにくわしいの!?」

 姥山さんがあきれたような声をあげる。

「わたし、電車でんしゃ苦手にがてで、歩いてばかりいるので……」

「ああ、わかったわかった」


「とにかくここをすすんでみよう」

 犬上くんがはなをひくひくさせながら言った。

佳穂かほ、これ……!」

 姥山さんがスマホの時計とけいをこちらに向けて、眉間にしわをよせている。

 まずいわね――といいたげだ。もう一時間じかんほど地下道をさまよっている。

 いいかげん出口見つけないといけない時間だ。


 もし。もし、このまま日没にちぼつになってしまったら……。

 ひやあせがひたいをながちる。 

 犬上くんは、さっきからずっと口数くちかずすくない。

 

「また、ふり出し!?」

 大原隧道トンネルを抜けるとまた元町・中華街駅の地下道に戻ってしまった。

「少しやすもう……」

 構内こうないのベンチに荷物にもつろすと犬上くんが言った。

月澄つきすみ、ちょっと荷物を見ていてくれないか? 姥山、ちょっとてくれ、あっちに見せたいものがある」

 犬上くんが姥山さんに合図あいずおくったように見えた。


 二人ふたりは声がれないようなところまではなれると、なにかはなしをしているようだ。

 なに、話しているんだろう……?

 わたしは聞こえないはずの声に聞きみみてた。

 すると突然、二人の会話かいわがはっきりと聞こえるようになった。

【これはどうかんがえても、クオリア使つかいのせいだろう!】

【そうね、間違まちがいないわ】

 二人の声は、さっき空耳そらみみのように聞こえた犬上くんの声と、おなじ聞こえ方をしている。

あやしいのは、あのね】

 あの子――きっとフィン君のことだ。

【あいつがクオリア使いかどうかはまだわからない。さっき話しかけてみたけど、聞こえてるふうじゃなかった。誰か別のやつがいるかもしれない。攻撃こうげきされたわけじゃないけど、ねらってやっているとしか思えない】

 

 犬上くんの話からすると、この会話はどうやらクオリア使いでないと聞こえないらしい。


一般人いっぱんじんにはは出さない。それが祭礼ハントまりだ。何も知らないヤツをき込むなんて……】

【ふーん。一般人ねぇ……】

 

 二人がちらちらと、こちらを見るので、わたしは前髪まえがみしに視線しせんちゅうおよがせた。


【〝佳穂〟だからじゃないの? 巻き込まれたのが】

【う、うるさい! ここはおれ調しらべてみる! 相手あいてが、祭礼さいれい参加者さんかしゃだとしたら、ねらいは当然とうぜん、俺だ。|つぶし《バスター》の話は知ってるだろ? 姥山はもうリタイヤみ、だからターゲットじゃない。月澄をまもってやってくれ】

【……わかったわ】


 会話がわると二人はわたしのところに戻ってきた。

「月澄、姥山といっしょにここにいてくれるか? この――おかしな事をなんとかしたい。俺、ちょっと調べてくる」

 おかしな事――そうとしか言いようがないよね。

 わたしはうなずいた。

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