第14話 ここって……横浜駅!?

 ちょうど地下ちか通路つうろまでりたときだった。

 とおりのこうがわ階段かいだんだれかがおなじように降りてた。

 犬上いぬうえくんだ!

 トレーニングウエアをて、背中せなかにはリュックサック。

「よ、よう!」

 犬上くんはバツがわるそうに挨拶あいさつをした。

今日きょうくるまじゃなかったの?」

「ああ。誰かが『車はイヤだ』ってったからな。今朝けさはしってきた」

 犬上くんはちょっとすねたよう口調くちょうで言った。

「アンタんいえ結構けっこうとおいんじゃなかったの?」

「……なんでおまえがいるんだよ? 姥山うばやま

「いたっていいでしょ! あたしは佳穂かほ友達ともだちなんだし。それよりアンタこそ、なんでここにいるのよ」

「いたっていいだろ! わせしてるんだよ。このちかくで」

「待ち合わせ?」

「まだ時間じかんはあるんだけどな。お前らもなんかあるのか?」

「ぅ、うん、ちょっと雨宿あまやどり」

「そうか、結構、降って来てるもんな。おれもだ」

 犬上くんがにっこりわらった。

 ――一緒いっしょになってしまった。

 待ち合わせ。いったい誰となんだろう?

 でも、もしこのままあめがやまなかったら……。


「ねえきみたち! 同じクラスのひとだよね!?」


 ぐるぐるかんがえていたわたしのうしろからこえがした。

 ふりかえると壁面へきめんかざおおきなかがみの前に、一人ひとりおとこっていた。――鳳雛ほうすう制服せいふくだ。

 かたまである金色きんいろかみに、ヘアバンド。あおひとみに、ながいまつ

 男の子、だよね? 自信じしんがぐらぐらしてしまう。

 たしかにクラスでたようながする。

 名前なまえは――なんだっけ?


「ちょっとこまっているんだ。人をいかけてここまで来たんだけど……出口でぐちがわからなくなっちゃって」 

『人を追いかけている――』

 その言葉ことばに、わたしはちょっとドキッとした。


まよったって? そこに出口あるじゃないか! がればすぐ、中華街ちゅうかがいだぞ」

 犬上くんが、おどろいたような声をあげた。

 確かにそうだ、の前にはいま、わたしたちが降りてきた階段がある。

「え? あ? そ、そうだね! ありがとう!」

 

 男の子はうなずくと、わたしたちが降りてきた階段をいそいでけ上っていった。

 いったい、なんだったんだろう……。

 わたしたち三人はかお見合みあわせた。

 だけど――

 後ろのほうから、誰かが〝駆け上ってくる〟足音あしおとがした。

 さっき、犬上くんが〝降りてきた〟階段だ。

「はあ、はあ、はあ、はあ!」

 いきらして上がってきたのは……今、階段を上ってった男の子!?

 えーっ!? どういうこと?

「やっぱり迷っちゃった……」

 男の子はさっきよりいっそう困った顔で苦笑にがわらいをした。

「はあ? あんたふざけてるの!? 今、上って行ったばっかじゃない! すぐに降りてくるなんて!」

「え、え? どうして?」

 男の子は本気ほんきでわからないという顔をしながら言った。

「姥山さん、その人、降りてきたんじゃなくて上ってきたの」

 わたしは姥山さんに小声こごえつたえた。

 そうだ、さっきまでその階段は、地上ちじょうつづく〝上り階段〟だったはずだ。

 なのに、いつのにかしたかいに降りていく、〝下り階段〟にわっている。

 見間違みまちがえ――じゃ、ないよね!?


【おい……こえるか?】


 あれ? 今、一瞬いっしゅん、犬上くんの声がみみをかすめていったような気がしたんだけど……?


「……上に上がろう」

 むずかしい顔をしながら聞いていた犬上くんが言った。

「え!? 一緒に来てくれるの?」

 男の子の顔があかるくなり、わたしたち四人は、みんなで階段をのぼはじめた。

  

「ぼくはフィン。このはる横浜よこはまに来たばかりで、まだこのあたりのことがよくわからないんだ。君たちとはなしができてうれしいよ! 友達同士どうしなの? 君たちって」


「「こいつとは友達じゃない!!」」


 犬上くんと姥山さんがたがいを指差ゆびさしながら言ったので、わたしはおもわず苦笑いをした。


「え!?」

「地上じゃ」

「ない!?

 階段を上りきったわたしたちは、思わず声をあげた。


 さっき雨やどりするのにんだ地下鉄ちかてつぐち

 そこは、間違まちがいなく地上だったはずだ。

 なのに、階段を上りきったさきにあったのは、またしても地下!

「ここって!?」 

 どこかで見たことがあるような気がする――。

 キョロキョロ見回みまわすと、向こう側に電車でんしゃ案内あんないばんが見えた。

「ょ、横浜えき!?」

 さっきまでわたしたちがいたのは元町もとまち・中華街駅だったはず。

「電車にもっていないのに、むっつもはなれた駅に来たって!?」

 姥山さんが目をまるくしている。


 いったいなにこってるの!?

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