第13話 俺、今日はパスさせてくれ

 午後ごご選択せんたく科目かもく

 教室きょうしつ移動いどうがあり、犬上いぬうえくんとはかおわせないまま、下校げこう時間じかんとなった。

 わたしは、便利べんりさんとのち合わせのため、姥山うばやまさんと中華街ちゅうかがいあるいていた。


 横浜よこはま中華街――たくさんの中国ちゅうごく料理りょうりのおみせや、お土産みやげ屋さん、いろとりどりにかざけられた建物たてものがある観光地かんこうちだ。

 平日へいじつでもにぎわう中華街。

 とおりのあちこちからは、美味おいしそうなにおいがただよってくる。


「まだ全然ぜんぜん時間もあるし、にくまんでも、べる?」

 姥山さんがわたしの顔をのぞきんだ。

「ぇ、だ、大丈夫だいじょうぶ

 と、ことわったものの――からだ正直しょうじきだ。

 ぐきゅるるる、とタイミングよくおおきなおとでおなかった。

 

「体、ちいさいのにけっこう食べるのね。あんなに大きなお弁当箱べんとうばこだったのに」

 姥山さんがあきれている。

 そう、本来ほんらいのわたしはどちらかというと少食しょうしょくだ。

 なのに、コルボでサインしたから、すぐにお腹がるようになってしまった。

「どうしてか、わかります?」

多分たぶん佳穂かほのクオリアが特別製とくべつせいだからかな? このあいだたけどあなたのクオリアはムダに強力きょうりょくすぎるわ。当然とうぜん使つかうエネルギーもハンパじゃない。りてないぶん、食べものおぎなおうとしてるのよ、きっと」

「そうなんですか?」

「ええ、あなたは怪物かいぶつみたいに大きなバイクを初心者しょしんしゃ運転うんてんしているようなもの。あぶなくってしょうがないわ。よく暴走ぼうそうしないわね……」

「暴走?」

「本来、クオリアを使いこなすには練習れんしゅう必要ひつようなの。ちゃんと訓練くんれんしないとあばれだして、いうことをかなくなってしまうことがあるわ」

 暴走することがある。わたしはすこ不安ふあんになった。


「それにしても、あなたは本当ほんとう特別とくべつね。これまでの祭礼さいれい、コウモリは二日ともたずにつかまってしまうのが、普通ふつうなのだそうよ」

「ええっ? そうなんですか?」

 るのがそんなにむずかしいだなんて……。

「あなたは、よっぽどコウモリにいているのね」

 姥山さんがニヤリとわらったので、わたしはくちをへのげた。

「オマケに、味方みかたまでいるし。ラッキーなのも前代未聞ぜんだいみもん!」

「ぃ、犬上くん?」

「そ。コウモリに味方する追撃者チェイサーなんてありえないって。しかも、アイツだけじゃないらしいのよ。何者なにものかの仕業しわざで、昨日きのう追撃者チェイサー二人ふたり再起さいき不能ふのうになったって」

「え!? 二人も!?」

正体しょうたい不明ふめい追撃者チェイサー。みんな『つぶし屋バスター』なんてんでるらしいわ」

 姥山さんはしんじられないとう顔だ。

「とにかく、あなたは注目ちゅうもくされているの。だから油断ゆだん禁物きんもつとくにあのシュナイダー先生せんせい。あなたのはなしじゃ、かなり信頼しんらいしているみたいだけど……。おしえといてあげるわ。あいつは|よるとり《・・・》。信用しんようしちゃダメよ」

「〝夜の鳥〟って?」 

「この鳥獣ちょうじゅう祭礼を主催しゅさいしているトリのおうの〝とりまき〟たちの事よ」

「王――って、トリには王様おうさまがいるの!?」

「ええ」

 夜の鳥――トリの王のとりまき。シュナイダー先生がその一人ひとりだなんて……。

 わたし、いったい、どれだけらない事があるんだろう……。


 肉まんを食べわると、わたしと姥山さんはふたたび歩きした。

「で、今日きょうはどこからはじめるつもり?」

「今日は山下やました公園こうえんからです」


 便利屋さんとは、もう少しさき地下ちか駐車場ちゅうしゃじょうで待ち合わせをしている。

 昨日の作戦さくせん、すぐに見つかってしまったのがショックだったらしく、今日は小細工こざいくはしないらしい。

 だけど、今日は天気てんきほう心配しんぱいだ。

 予報よほう夕方ゆうがたからあめ……って、もうってきた!?

 そら見上みあげた顔に、ぽつりと雨粒あまつぶがあたる。

「う、うそ!? はやすぎじゃない!?」

 姥山さんが文句もんくを言っている。

 見る間に雨はつよくなってきて、わたしたちは、まえにあった地下鉄ちかてつり口にかけこんだ。

 

 雨降あめふりだと、祭礼《ハント》はどうなるんだろう?

雨天うてん中止ちゅうしには――ならないよね」

 灰色はいいろの空を見上げながら、わたしはおもわずつぶやいた。

たり前でしょ? なるわけないわ」

 姥山さんが、ツッコミを入れる。

 わたしは顔をひきつらせた。この天気でおにごっこをやるひと、普通はいないよ……。

 かんがえていたら、カバンのなかのスマホがふるえているのにがついた。


 メッセージ、便利屋さんからだ。

『おい、降ってきたぞ! 雨天中止にはなんねえのか?』

『当たり前です。なるわけないでしょ?』 

 わたしは返事へんじち込んだ。

おれ、今日はパスさせてくれ』

 理由りゆうは、想像そうぞうがつくなあ……。

 笑っているをスタンプ一って返事をする。がくにはいかりマーク。

くるまのシートがれる。かんべんしてくれ』

罰金ばっきん。五十万えん


 ――返事がない。


「まだ時間もある。ここで待ってても仕方しかたないしさ、した降りない?」

 スマホをのぞき込んだ姥山さんが言った。


 今日の祭礼開始かいしまで、まだ一時間以上いじょうある。

 わたしはうなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る