第6話 出ていくわけないでしょ!?

「ビンゴじゃないか!」

 わたしが階段かいだんしたかくれたのと、通路つうろぐちこえがしたのは同時どうじだった。

 〝ぶちまけられた|砂飴ざらめのベージュ〟にひかる声。

 ――こ、この声って!?

 そうおもったとき、いきなり通路の入り口にまれていたドラムかんがくずれちた。

 ひどいおとといっしょに、あたまうえに砂ぼこりが落ちてくる。

 悲鳴ひめいを上げちゃダメだ。

 わたしがいる場所ばしょ追撃者チェイサーにはまだつかっていない。

 追手おってがいるのは通路の入り口。

 わたしはそちらにみみけた。

 見える音にぼんやり〝こえた〟ひとかげは、2つ。

 一人ひとりは、さっき声を上げたほう。シルエットにはゆがんだ口もとがはっきり見えた。

 まちがない。風紀ふうき委員いいんちょう、リック・ダスタードリィだ。


「さすがだね! そのはな

 風紀委員長が、もうひとつのかげに向かってはなしかける。 

「いやいや、アンタこそ、いいあじだ。これなら今日きょう決着けっちゃくがつくだろうな」

 人かげがわらう。その姿すがたははっきりと見ることができない。つめたいきりのような、けむりのような姿にしか〝聞こえない〟。

 だけど――

 やっぱり〝ふう〟だ。犬上いぬうえくんとてる風。

 でもちがう。全然ぜんぜん、ちがう。

 かんじたのは〝きたくろもりける灰色はいいろの風〟。

 こころそこまで冷えませるなまりのような風。

 ひくい声は大人おとなおとこの人のようだった。

 

「ふん、当然とうぜんさ!」

 風紀委員長が声をあげた。

「はは、それでこそ、ここまでれてきたかいがあるってもんだ。さあ、おれ役目やくめはここまでだ。存分ぞんぶんにやってくれ」

 いうがはやいが、その〝灰色の風〟のシルエットはうずをいてえうせた。

「ふん、いぬが!」

 ぼそりと風紀委員長がつぶやいた。

 砂飴ざらめの声の委員長いいんちょう。やっぱりあの人も追撃者チェイサーだったんだ。

「さて、コウモリちゃん! いるんだろ? ておいで!」

 出ていくわけないでしょ! 

 工場こうじょう建物たてものあいだのせまい通路。

 わたしが隠れているのは入り口ちかくの階段の下。反対はんたいがわ出口でぐちはずっとうしろのほうだ。

 工場のかべかこまれたほそくて長いそら一番星いちばんぼしが見えてはいるけど、んでげるにはたかすぎる。上り切るまでには絶対ぜったい、見つかってしまうだろう。

 これじゃあ、ふくろ飛鼠コウモリだよ……。

 かくれんぼとしては、めちゃくちゃ不利ふり

 いっしょに通路に入った便利べんりさんの姿は見えない。通路には鉄骨てっこつやドラム缶がたくさんかれていて、見通みとおしがわるい。

 

「出てこないなら、こっちからいくよ!」

 突然とつぜん、通路に楽器がっきの音がひびいた。

 弦楽器げんがっき、バイオリン!?。

 聞いたことのある、ゆかいなメロディ。

 童謡どうようだとは思うんだけど、曲名きょくめいまでは思い出せない。

 わたしは階段のすきまから耳を出してのぞきこんだ・・・・・・

 ざらつくあまいベージュがゆみって軽快けいかいに音を鳴らしている。

 だけど、おかしなことに肝心かんじんのバイオリンが見当みあたらない。そのにあったのは弓だけだ。いているのはなにもない空間くうかん

 その弓がおおきくりかぶられる。

出てこい、コウモリちゃん!Pop gose the baty!

 突然、ぎゅいん、と音がゆがめられた。

 その途端とたん、風紀委員長のまえにあったドラム缶がぷたつになってくずれ落ちた。

(――――っ!)

 衝撃しょうげきはわたしのところまでとどいた。

 な、なにあれ!?

 きょくはまだまだくりかえす。。

 音がちぢみし、ねるように音符おんぷおどっている。

 がらん! ごわん!

 風紀委員長が弓をふるうたびに、ならべられている鉄骨や、ドラム缶が真っ二つになっていく。

 だけど〝見えない〟。

 だけじゃない、〝見える音〟にも何も返ってこない。

 見えない、聞こえない、なにか刃物はもののようなものが弓からはなたれ、邪魔じゃまするものを切りきざんでいる。


「ははは、いいでしょ!? ぼく独奏会コンサート! キミだけに用意よういした特等席とくとうせきだよ!」

 目の前のすべてのものをなぎたおしながら風紀委員長が、だんだんこっちに近づいてくる。

 飛びだしたら、間違まちがいなくあの〝見えない刃物〟でねらわれる。

 どうしたら……。

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