第4話 知るまで、教えられない

「はあ!? またおまえ面倒めんどうごとえてるじゃねえか!? やるあんのか?」

 あかいオープンカーを運転うんてんしながら便利べんりさんが文句もんくった。

 

 わせの場所ばしょ。便利屋さんと合流ごうりゅうしたわたしは、今日きょう出来事できごとはなしてかせた。

 学校がっこうがクオリア使つかいでいっぱいだったこと。前髪まえがみをどうにかしなきゃ最悪さいあく退学たいがくさせられそうなこと。


「ゃ、やる気はあります」

 わたしはくちをとがらせた。

 どうしてこうなったのか聞きたいのはこっちだ。


「ったく、むしろ退学させられたほうがいいんじゃないのか? こんな学校、あぶなっかしくてしょうがないだろ?」

「そ、それはこまります! もとはと言えばこの学校にかようために、コウモリに変身へんしんするハメになったのだし、祭礼さいれいにも参加さんかしているんですよ! 祭礼でのこるために、学校やめたんじゃ、本末転倒ほんまつてんとうです!」

「いや、しかしなあ……。あまりにもいろいろありすぎだぞ これ?」

「…………」


 かえ言葉ことばがない。

 たしかに、便利屋さんの言う通りだ。

 偶然ぐうぜんというには、あまりにも色々いろいろなことがこりすぎている。そもそも――

「……どうしてわたし・・・なんだろう?」


 わたしをコウモリにした、仕立したて屋ランカスターもわたしのことを『特別とくべつなお客様きゃくさま』とんでいた。どうかんがえてもなにかわけがあるとしかおもえない。


だれかに、聞けりゃあいいんだがなあ……ん!?」

「あ、そうか!」

 わたしと便利屋さんは、考えんで同時どうじこえげた。

「「電話でんわだ!!」」

 

    *      *


 夕陽ゆうひ背景はいけいおおきな建物たてものれが影絵かげえのようにならんでいる。

 ここは大黒だいこくとう昨日きのう山下やましたふ頭とはべつ船着場ふなつきばだ。

 観光地かんこうちちかいあちらとちがって、このあたりは工場こうじょうばかりがち並んでいる。

 便利屋さんとわたしは、赤さびのいた工場の前で電話をかけた。

『はいはい! おつかれさまー、昨日はすごかったね! コウモリのおねえちゃん!』

 スマホのスピーカーから脳天気のうてんきな声がした。コルボの店員てんいん少年しょうねんだ。

 コルボ――仕立て屋ランカスターのおみせ

 そこの店員ならなにかをっているかもしれない。


「おい! ちょっと。いいか?」

 便利屋さんがってはいる。

『はーい。なんでしょう?』

「この仕事しごと、割に合わねぇ! もっと賃金ちんぎん上げろ!」

 え? それが聞きたいこと!?

『まーた、冗談じょうだんを! 賃金ならそこのやとぬし相談そうだんしてよ』

「……っ!」

 便利屋さんが横目よこめでわたしたので、わたしはくびよこにふるふるさせて返事へんじをした。


『でも、便利屋のオジさんもすごいね! あんなに〝いろんな事〟ができるんだ! 知らなかったよ。今度こんどくわしくおしえてよ!』

「う、うるせぇ! よけいな事、言うんじゃねぇ!」

『あー、そう。用事ようじがないんならるよー』

「いや、ふざけんな! ちょっと待て!」

『切るよー』

「わかった、わかったから! 質問しつもんさせてくれ! 昨日のヤツらは探知機たんちきを使ってたよな。あれは追撃者チェイサーならみんなってるモノなのか?」

『ちがうよ。あれは鶏禽ニワトリ瀬々理せせりたちが勝手かってにやってたズルのひとつ』

 瀬々理――姥山うばやまさんの事だ。

「ズルって?」

『そ、かれらは必死ひっしなんだよ。だから普通ふつう追撃者チェイサーはやらないような事をやってる』


 ――普通はやらないような事。

 それって、今日の昼休ひるやすみに姥山さん本人ほんにんから聞いた話だ。 

 本当ほんとうの祭礼の参加者さんかしゃは姥山さん、ただ一人ひとり。あとの二人ふたり、ガツさんとハツさんはただのすけ。助っ人が祭礼ハントに参加するなんて事は、いままでになかったらしい。

『ルールにいてなかったから、やったのよ。アンタの前髪とおなじね』

 姥山さんはそう言ってわらってた。


『クオリア使いは自分じぶん能力のうりょくほこりを思っている。だから、コウモリをいかけるのに道具どうぐは使わないのさ、普通はね。探知機やものを使った追撃者チェイサーなんてはじめてじゃないかな?』

「ふん。わかった。しかしなあ、随分ずいぶん不利ふりじゃねえか、この姉ちゃん。だんだんおにが増えてくんだろ? 降参こうさんてったって、昨日みたいに上手うま相手あいてれてくれるばっかじゃねえだろ。なんかほか方法ほうほうはないのか? 鬼を再起さいき不能ふのうにさせる方法とか」

 ……なんかとっても物騒な話をしている。わたしは冷や汗をかいた。

『おねえちゃん。からだなかに何かが〝ある〟感覚かんかくわかる?』

 わたしは思いたった

 あの変身のときかんじるあのくろはなだ。

「黒い花みたいなの。この辺りに」

 わたしはむねのあたりをさえた

『それが〝クオリアのコア〟だよ。そのコアにそとからちからを当てれば、コアがふるえて一ヶ月かげつくらいは変身ができなくなる。〝コアしんとう〟って言うんだ。そして、コアはクオリア使いならみんな持っている』

「一ヶ月変身ができなくなる――なるほど! 祭礼期間きかん中には復帰ふっきができなくなるわけか! じゃあ、そうやってらしていきゃ楽勝らくしょうだな」

『さあてね。そう上手くいくかな? コアのある場所は本人しかわからないし、ピンポイントに攻撃こうげきを当てないとしんとうはおこせないからね」


 うーん。ちょっとむずかしそうだ。

 でも祭礼期間を切りける方法として、おぼえておこう。わたしは思った。


「っ、つぎ。わたしからいい? 昨日の鬼ごっこ、最後さいごは山下公園こうえんだったでしょう? わたしも犬上いぬうえくんも、姥山さんも変身したままドタバタやってたのに、誰もびっくりしてなかった。あれはなぜ?」

 昨日から、ずっとっかかっていた。

 れてから三十ふん。観光地でもある山下公園には、まだ、たくさんの人がいたはずだ。なのにわたしたちの近くには誰も近寄ちかよってはなかった。


『それはね、昨日、わたした指輪ゆびわのおかげさ。祭礼の参加者はみんな持ってるんだけど、指輪をつけている人のまわりには、普通の人は近寄れないし、まんが一見えていても覚えることができなくなる。近寄れるのは、クオリア使いか、指輪の使用者しようしゃみとめた人だけだよ』

「そ、そうなんだ」

 人払ひとばらいの機能きのう。いいものをもらった、とわたしが思ったのは内緒ないしょだ。


「もう一つ、聞いていい?」


 わたしは一番いちばん聞かなきゃいけない事を切りした。

「どうしてわたしなの? どうしてわたしがコウモリなの?」

 

『……ヒミツ、かな? 〝知るまで〟教えられない』


 それまでずっと能天気のうてんきだった少年の口調くちょうわる。

 まるで人差ひとさゆびで口にふうをするかのような声。

 聞かないで……って事なのか。


『さ、今日の質問は、これまで! もうすぐ変身の時間じかんでしょ? 今日も頑張がんばってねー! おねえちゃん!』

 あかるい声がもどってきて、電話はプツリと切れてしまった。

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