第3話 いい返事、待ってるよ!

 わたしと姥山うばやまさんは、校舎こうしゃ裏側うらがわでお弁当べんとうべ、教室きょうしつへともどった。

 食事しょくじはのどをとおりにくかったけど、無理むりやりんだ。

 あんなヤツに気持きもちでけたくはない。

 そのあと午後ごご授業じゅぎょう何事なにごともなくわった。

 選択せんたく科目かもくちがったので、姥山さん、犬上いぬうえくんは教室にはいない。

 おひるのことがあったのだけど、いまなら、ちょうどいい。

 この学校がっこうのことを、もっとりたい。

 それがけるのは、わたしの正体しょうたいを知っているもう一人ひとり人物じんぶつ

 シュナイダー先生せんせいだ。

 かえりのしたくをすませて、わたしは職員しょくいんしつへとかった。


「ぁ、あの……1ねんぐみ月澄つきすみ佳穂かほです。シュナイダー先生はいらっしゃいますか?」

 勇気ゆうきをふりしぼって、ドアのちかく先生にこえをかけるる。


「シュナイダー先生? かれはここにじゃないよ。えっと、どこだったっけかな? 知ってる?」

 ドアのすぐそばにっていた先生が、べつの先生に質問しつもんする。

わたしもわからないわ。なにいそぎのよう?」

「ぃ、いえ……今は、大丈夫だいじょうぶです」

 わたしはあわてて職員室を後にした。


 どうやらシュナイダー先生のせきは職員室にはないみたいだ。

 いったい、どこにいるんだろう……。


「カホ!」

 廊下ろうかあるいているところで後から声がかけられた。姥山さんだ。

「こっちて! 大変たいへんよ!」


    *      * 


 わたしと姥山さんは走って、校舎のぐち掲示けいじばんまでやってきた。

 そこには一枚いちまい案内あんないされていた。


「な、なに、これ!?」


 内容ないようてわたしはびっくりした。

 かれていたのは、生徒会せいとかいめたという、校則こうそくへの追記ついきだ。


前髪まえがみ規定きていまゆにかからないこと。なが場合ばあいは、ゴムでまとめるか、使つかうこと』って書いてある!


「これ、カホのことねらちでしょ?」

 真顔まがおの姥山さんに、わたしはうなずくのがせいいっぱい。

 あたらしい校則は明日あしたから有効ゆうこうになるらしい。

「そ、そんな……」

 いったい、どうしたら……。

 

「やあ、おじょうさん!」

 途方とほうれたわたしの後ろから声がした。

 砂飴ざらめのようないやな声。風紀ふうき委員いいん長、リック・ダスタードリーだ。


「ウチの校則にね、不備ふびがあったからさ。ボクが提案ていあんしたんだよ。さっき生徒会に提案してそく可決かけつ違反者いはんしゃ最悪さいあく退学たいがく素敵すてきだろう?」

 風紀委員長は、いたようなかおわらっている。


「いやね。ちょっと興味きょうみが出たんだ。風紀委員にたてつく、勇気あるお嬢さんにさ。だから、いっそのことぼくたちのところへ来ないかい。キミのようなひとこそ風紀委員かい必要ひつようなんだ。知ってるかい? 委員会いいんかいに入った生徒せいとは、特待生とくたいせいとしてあつかわれて校則の適応てきおう免除めんじょされる。キミは今まで通り、キミのままで風紀委員として活躍かつやくしてくれればいいんだよ。さあ、ウチへおいでよ」 


「…………」

 わたしは無言むごん返事へんじをした。

 この人は、一体いったいなにをっているんだろう?

 勇気がある? 冗談じょうだんでしょ?

 こんな臆病おくびょう生徒わたしを、校則をげてまで、おもい通りにしたいなんて!


「はん、馬鹿馬鹿ばかばかしい!」

 それまで、だまっていた姥山さんが声をげた。

「キミは? …………なんだ、〝チキン〟か」

 って入った姥山さんを見て、風紀委員長は聞こえないようなちいさな声でつぶやいた。


「キミは関係かんけいないだろ?」

「ええ。関係ないわ。そしてこのもね。こう!」

 そういうと姥山さんはわたしのった。

「ちょ……ちょっと、ぅ、姥山さん」

 姥山さんはわたしをグイグイっ張りながら歩いていく。


「ま、期限きげんは明日までだ。いい返事っているよ!」

 後ろで風紀委員長の声がした。


調しらべたんだけどね。アイツ……評判ひょうばんわるいらしいの。に入らない生徒をねじせて、風紀委員にして、まわりにはべらせるの。趣味しゅみが悪いわ」

 わたしを引っ張りながら、姥山さんが言った。


 わたしは生徒会室を出るときに見たかけた、ほかの風紀委員さんたちのくもった顔を思い出した。

 あれはそういう事だったのか。

 それにしても、ここの生徒会はヘンだ。まるで風紀委員長がなんでも勝手かってに決めているように見える。


「生徒会長かいちょうさん、っていないの?」

「〝いるけど、いないんだって〟。だから風紀委員長があばれているの」

 姥山さんがあきれたような顔をした、ちょっと意味いみがわからない。

 

 それにしても、さっきの風紀委員長の言葉ことば……。


『なんだ敗者チキンか』


 聞こえないと思ったんだろう。

 でも、わたしにははっきり聞こえた。

 ――も、もしかして。

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