第19話 逃げるけど、逃げないっ!

 突然とつぜんあたまうえから〝かぜみどり〟と〝ほのお緋色ひいろ〟がってきた。

 犬上いぬうえくんと緋色の娘ニワトリ同時どうじこえを上げる。

「とった!」

「させねえ!」

 緋色の娘ニワトリりと犬上くんのこぶし激突げきとつする 

「くらえッ!」

 緋色の娘ニワトリが、ちゅうかえってかかとを犬上くんにたたきんだ。

 そのかかとは、まるでニワトリの尾羽おばねのような炎をあげてえ上がった。

「すげえな! それがあんたのクオリアか!」

 うでに風をまとわせて、犬上くんが燃え上がる炎をかきしていく。

 あつ……っ! 熱風ねっぷうがここまでた。

 本当ほんとうにデタラメだ! こんなひとたちに、わたしがかなうわけがない!

 そう、おもったときだった。

 突然、〝えるおと〟がわたしをさぶった。

 とおくで〝メタリックグリーン〟がかがやく。緋色の娘ニワトリ仲間なかま!?

 なにかくる!? かんじたのはスポンジだん! 弾がんでいくさきは――犬上くん!?

「・‥…━━━━━━━━━━━━━━…‥・ッ!!!」

 あぶないっ! わたしはさけんだつもりだった。

 だけど、わたしのくちからたのは、〝のような声〟。

 スポンジ弾にかって一直線いっちょくせんに飛んでいく。

 パシィッ!

 まばゆいひかりはっして、スポンジ弾は弾け飛んだ。

 な、何!? いまのは、わたし!? 

 声でグラスをる人の動画どうがを見たことがある。たかい声がグラスに共鳴きょうめいして割れるのだという。だったら、これはわたしの声のちから

 デタラメなこと自分じぶんでも出来できてしまった……。

「サンキューな! コウモリ!」

 たたかいながら犬上くんがわらいかける。

 だけどそのかお一瞬いっしゅんだ。真顔まがおわって犬上くんがさけんだ。

「来るぞ! コウモリ!」

 わたしはうなずいた。

 地鳴じなりのような音をひびかせて、船着場ふなつきば巨大きょだいなトラックがあらわれた。

あねさん!」

 きゅうブレーキ。こげたタイヤのにおいのなか追手おっておとこが、わたしに向かってスポンジ弾をはなった。

 だけど、攻撃こうげきたらない。弾き飛ばしてくれたのは犬上くんだ。

大丈夫だいじょうぶか!? コウモリ!」

「だ、大丈夫! ありがとう!」

 わたしはぎこちなく笑い返した。


 そのあいだに、緋色の娘ニワトリはトラックに向かってけ出した。

「ガツ! バイク出して!」

「まかせろ! 姐さん!」

 緋色の娘ニワトリの仲間がトラックのゲートをける。

げろ! コウモリ!」犬上くんが叫んだ。

「はいっ!」

 わたしは駆け出し、地面じめんを蹴った。からだが地面からい上がる。

    *      *   

 バンッ! トラックのとびらから緋色の娘のバイクが飛び出した。

わせねえぞ!犬上が行手ゆくてをふさぐ。

 しかし、スポンジ弾がそれをさらに邪魔じゃまをする。

「オオカミ! おまえ相手あいておれたちだ!」

 つづいて追手の男たちのバギーも飛び出した。

 スポンジ弾が犬上に向かって放たれる。

 

「逃げろ! コウモリ! 絶対ぜったい、逃げれ!」

    *      *

 船着場にそってわたしは飛んだ。

 ――――来た!

 緋色の娘ニワトリのバイクだ。ほかにはだれもついてこない。

 犬上くんは!? にはなるけれど、り向ているヒマなんかない。

「逃すか! コウモリっ!!」

 バシュ! バシュ! バシュ! バシュ! バシュ! バシュ! 

 緋色の娘ニワトリのバイクから何かが発射はっしゃされた。今までいたことがない音だ。かずは六発。

「・‥…─ ━ ━━━━… ッ!!」 

 つばさをひらめかし、それをかわす。

 だけど――よけたはずなのに、まだ追ってくる!?

 むっつの弾はたがいにからまりながら、わたしをとらえて逃さない。追ってくる弾!?

 パパパパパパ! 

 おまけにスポンジ弾も打って来た!

 わたしのまわりを無数むすうの弾がみだれ飛ぶ。

 こ、こわい……! 思わずをつむったその瞬間しゅんかん


「逃げろ! コウモリ! 絶対、逃げ切れ!」


 遠くで〝風の草色くさいろ〟が輝いた。犬上くんだ!!

 そうだ! けられない。負けるわけにはいかない。

 勇気ゆうきをもらった翼がひらめく。ばたきがこわさをかき消していく。

 無数の弾のとおみち。その間にたったひとつ、〝真鍮しんちゅうしょく〟に輝く道が見えた!

 わたしは翼をひるがえして目を開けた。

 追手のバイクが目の前にあった。緋色の娘もぐこちらを見ている。

 チリチリとこげるようなつよひとみ

 こわい、けど、もう逃げない。逃げるけど、逃げない!

「… … … …━━━━━!!」

 〝真鍮色〟の逃げ道は、船着場にならんだコンテナのれへと続いている。

 わたしは、その中へ飛び込んだ。

 そのまま迷路めいろみたいなジグザグの道を、みぎひだりへとよけながら飛ぶ。

 ドド! あとで音がした。

 追ってくる弾の数がっている! コンテナに当たって減ったんだ! のこりは四発!

 ちょっとでも気をけば、かべか弾に当たってしまう。

 こわいけど、今は飛ぶことだけに集中しゅうちゅうする!

 かくがる。ドン! 残りは三発!

 だけど――い、まり!?

 目の前には壁のようなコンテナ。だけど、真鍮色の道は途切とぎれていない。

 壁のすみっこ。わずかなすき間に続いている。

 わたしは飛びながら目をつむった。

 音がおしえてくれている! 体をひねって翼をのばす! すき間にあわせて体を垂直すいちょくに!

 ドドン! 後ろで2つの音。残りは一発!

 はるか先にひとすじの光が〝聞こえた!〟――出口でぐちだ!

 ドン! 最後さいごの一発の爆発音ばくはつおんがして、わたしは目を開けた。


 目の前には山下やました公園こうえん氷川丸ひかわまる! 

 きらめくまち背景はいけいに、横浜よこはまのシンボルのふねが輝いていた。

 なんてきれいなんだろう! 

 だけど、そこでわりじゃなかった。

 すぐ後ろに、〝緋色の炎〟が燃え上がる。

 みみの先がビリビリする。来る! 今までで一ばんのが!

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