第16話 これなら楽勝!……って思ったら

「は、はやくないですか!?」

らねぇよ!! ……ヤベぇ! あっちからもやがった!」

 ジェットスキーだけじゃない、今度こんどは〝メタリック・ブルー〟のかがやき、昨日きのうのバギーカーだ。結局けっきょくうみりく両方りょうほうで来た!? 最悪さいあくだ!

びますよ!」

「ああ! 飛べよ!」

「飛びます!」

「飛んでねえよ!」

 まえくらい海。こわくてはじめの一がふみせない。

 バギーカーはもうちかくまでやってきている。

 昨日は二人ふたりっていたはずだけど、今日きょう一人ひとり

 かわりに助手席じょしゅせきなにつつのようなものがけられている。

 物干ものほしざおじゃあないよね……!?

 バシュッ! おもったとおり、物干し竿ざおからおとがした。

 何か、飛んでくる!?。

「いいから!  早く飛べ!」

 わたしは便利べんりさんにつかまれほうげられた。

「ひぃやあああっ!」

 こわい、こわすぎる! わたしは必死ひっしばたいた。

 そのよこを、物干し竿からち出されたものが、海にかってちていく。

 蜘蛛くも? ちがう、あみだ。さかなつかまえる投網とあみのようなもの。

 あんなのにからまったら、おしまいだ。

 空気くうきをつかんで、ろす。からだがグン、と前にすすむ。

 もっと早く! もっと、前に! 

 海のうえには〝緋色ひいろ〟がきらめく、ジェットスキーがうなりをあげる。

「コウモリッ! 今日こそ決着けっちゃくつけてやるっ!」

 間違まちがいない。昼間ひるま学校がっこうですれちがった緋色の娘ニワトリだ。

 に何かをっている? もしかしてじゅう!?

 パス、パス、パスッ! 

 思った通りだ! ちいさいたまのようなものがわたしのすぐ横を飛んでいく。

「ひゃあああっ!?」

 ふり上げたうでが思わずまる。途端とたんにガクン! と、海がせまってくる。

 あわてて腕をふり下ろす。

 海面かいめんスレスレ。パシャン、パシャンと、羽ばたくたびにつばささきみずを打つ。

 それなのに――

 パパパパパパ! 

 連続れんぞくってきた! わたしのまわりを弾がみだれ飛んでいる。

 たる!! 落ちる!! ぬ――!! わたしは思わず悲鳴ひめいを上げた。

「・‥…─ ━ ━━━━… ッ!!」

 その悲鳴は〝こえるこえ〟にはならなかった。

 悲鳴は〝真鍮しんちゅうしょく〟のひかりを放って、無数むすうの弾にこだまする。

 すると無数の弾が、めぐらされたられたいとのように〝聞こえて〟きた。

 これって、もしかして弾の通りみち!?

 思うより先に体がうごく、無数の糸をくぐりけ、わたしは飛んだ。

「よけんじゃねええええええ!」

 緋色の娘ニワトリさけぶ。

 ふたたび弾が乱れ飛び、〝真鍮色〟がこだまする。

 無数の糸のその先に、ゴールがえてきた。向こうがわ船着場ふなつきば

 わたしは、思いっきり羽ばたいた。 

「ぅわ――っ!」 

 体がふわりと持ち上がり、わたしは船着場の上にころがりんだ。

「はあ はあ はあ はあ はあっ!」

 飛びった! 

 最後さいごの何メートルかは、何がこったのか自分じぶんでもよくわからない。

 だけど、出来できた! これですこしはやすめる。

 そう思った矢先やさき、船着場をぐるっとまわり込み、バギーカーがやってきた。

「も、もう来たの!?」

 パパパパパパ!

「ひええっ!」

 油断ゆだんしたところに、海の上から弾が飛んできた。緋色の娘ニワトリだ。

 バラバラと地面じめんに落ちたのは、クレヨンみたいなかたちのスポンジの弾。

 さっきから撃たれてるのは、これなんだろう。怪我けがはしないけど当たればいたい。

 かえすなんてかんがえられない!

 わたしはもと来た船着場とは反対はんたい方向ほうこうに向かってはしり出した。

 地面をけり、うでをふり下ろす――離陸りりくっ! 

 バシュッ! バギーカーが撃ってきた! わたしのすぐうしろで蜘蛛の巣がひらく。

 羽ばたいて、それをかわす。

にげがすかっ!」

 バギーカーの運転手うんてんしゅつづけざまに網を撃ってくる。

 これじゃダメだ! なんとかしなきゃ!

 わたしは思い切って、つよく羽ばたいた。

 一回、二回、いしのようにかたい空気をつかんで振り下ろす。

 腕がおもい。だけど、それと引きかえにぐんぐんたかくのぼっていく。

 船着場にならんだ倉庫そうこ屋根やねがはるか下に見えている。

 こ、こわすぎる! だけど――

 バシュッ!

 放たれた網は、この高さにはとどかない。しぼんで地面へ落ちていく。

 これなら、逃げきれるかも! わたしは一気いっきに倉庫の屋根を飛びえた。

 目の前にはおおきなはしが輝いている。横浜よこはまベイブリッジだ。

 だけど、見とれている場合ばあいじゃない。

 追手おっては──来た! 緋色の娘ニワトリだ。

 海を回り込んで、一直線いっちょくせんにこっちに向かってやってくる。

 このまま三ぼん目の船着場まで海をわたってしまおう。わたしは思った。

 パパパパパパパ! 

 弾の通り道が、カーテンみたいに夜空よぞらにゆれる。

 それをかるくかわしながら飛ぶ。もうベイブリッジは目の前だ。

 これをくぐればまた引きはなせる。

 やっぱり、飛べるのは圧倒的あっとうてき有利ゆうり! この調子ちょうしで飛んでけば、捕まりっこない!

 ──そう思ったときだった。

 キイイイイイイイイイン

 何この音?

「── ─   ─          ッ!?」

 ヘンな音が聞こえたとおもったら、きゅうに〝見える音〟が見えなくなった。

 一体いったい、なにが起こったの? 不安ふあんになって、声をあげる。

「… …  …… ッ!」

 とおくでわずかに〝メタリックグリーン〟が輝いた。緋色の娘ニワトリ仲間なかま!?

 あぶない! 翼をひるがえしたけど、おそかった――。

 あしに何かがからみつく。

 蜘蛛の巣!?

「きゃああああっ!」

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