第8話 お目覚めですか? 灰かぶり姫

 めた。

「やっときましたね。眠り姫スリーピング・ビューティ

 だれかのこえだ。

 〝みずうみあお波紋はもん〟があたりをらしてえていく。

 誰だろう? 眠り姫だなんて。

 …………

 ………

 ……

 …

 …………え?! わたしはを起こした。

 ここは……どこ? 

 なにかの作業さぎょうしつ? おおきなまどかって椅子いすひとつ。かなりせまい場所ばしょだ。

 そして、その椅子のそばに一人ひとり青年せいねんっていた。

 んだみずおもわせるひとみ。ふわふわしたしろかみ。やさしそうなみをかべるその姿すがたは、まるでおとぎばなし王子おうじさまみたいだ。

 ――って、いったい誰!?

「ご無事ぶじのようで安心あんしんしました、コウモリの姫君ひめぎみ

「え!?」われてわたしは自分じぶんうでた。

「こ、これは……あの、その」

 コウモリのつばさ。誰かに見られていいものじゃ、ないよね?

大丈夫だいじょうぶ昨日きのう祭礼ハントわりました。ここは安全あんぜんです」青年はつづける。

「あなたは、時間切じかんぎれまでげきったんですよ。灰かぶり姫シンデレラ

 逃げきった? その言葉ことばにわたしはホッとした。

「それに……ぼくも〝おなじ〟、ですから」青年は自分のあたまゆびさした。

 そこには、けものみみと大きなかくがあった。

 その角、どこかで見たことがあるがする。それは――

「ヒツジ!?」わたしは思わず声をげてしまった。

 青年はやさしくうなずいてくれた。

 コウモリに、トリに、ヒツジ。自分のような人間にんげんほかにもいるなんて。

「ぁ、あなたは……?」

「ウリアル、とだけ覚えておいてください。さあ、灰かぶりもその魔法まほうをとく時間じかんです」

 窓から見えるそらが、あかるくなりはじめていた。

「ときかたは――ご存知ぞんじないですね。では、初心者しょしんしゃ向きのやり方を」

 そう言ってヒツジの青年はほほえんだ。

「では、まずむねてて『いまは大丈夫、もともどれ』と、つよねがってみてください」

 このひと何者なにものなのか、わたしにはわからない。

 でも、今はしんじるほかは、なさそうだ。わたしはウリアルの言葉にしたがった。

「今は大丈夫……」

 突然とつぜん、〝真鍮しんちゅうしょくひかり〟がわたしをつつんだ。光がうずをき、くろはなびらが消えてゆく。

「も、元に戻った……」

 翼も耳もなくなって、いつものわたしが戻ってきた。

 あれだけカラフルだった見えるおとも、ウソのようにだまりこんでいる。

「なれれば、きなとき変身へんしんできるはずです」青年は優しくくわえた。

「ありがとう……」

「こちらこそ。あなたをおたすけできて光栄こうえいです。では、僕はそろそろきます。さようなら、塔の君ラプンツェル

 そう言うと、ウリアルと名乗なのった青年は、ドアをひらけてそとへとしていった。

「え、ってください! もっときたいことが――」

 わたしはドアにった。

 しゅと白の大きなはしらが見えた。そのあいだを、ひつじの青年がかけりて行く。

「ひ、ひゃああああ! ここ……どこ!?」

 めちゃくちゃたかい! 浜風はまかぜが、わたしの前髪まえがみをかきみだす。

 みなとのキリン。|大きなクレーンの運転うんてん室に、わたしはのこされていた。

 横浜港よこはまこう朝日あさひのぼる。

    *      *

(こ、こわかった――!)

 非常ひじょう階段かいだん使つかって、なんとか地上ちじょうに戻ってきた。

 ウリアル――不思議ふしぎな人だった。

 そういえば、あの人の〝碧色へきしょく〟のかがやき、がけの上でき飛ばされた時にも見た気がする。

 もしかして、助けてくれたのはあの人、なのかな?

 つぎったら、ちゃんとおれいを言おう――わたしは思った。

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