第7話 飛んだなああっ!!

「きゃああっ!」

 あつかぜせ、わたしは空中くうちゅうばされた。

 いてないよ、追手おってにこんなことできるなんて!

 吹き飛ばされながらわたしはおもった。

 くやしい、このままわりたくない!

 そうねがったとき――からだ自然しぜんうごした。

 りょうひろげ、風をつかんでろす!

 ふわりと体ががる。飛んでる!? わたし、飛んでる!

「くそぉおお! 飛んだなああっ!!」

 追手のさけぶ。

ちろぉ――――っ!」ふたたび風がた。

 よけるなんて出来できるはずがない。くろつばさに風をまともにけてわたしは吹き飛ばされた。

「きゃああっ!!!」

 ドスン、ゴロゴロゴロッ! わたしは芝生しばふの上をころがった。

「きゃ!?」

「な、なななななななあんだあああ!?」

 芝生のよこのベンチにすわっていたカップルが飛びあがっておどろいた。

 そりゃそうだ。制服せいふくたコウモリおんなってきたのだもの。

「な、なななな?」

 カップルは、白黒しろくろさせている。

「あ、あ スミマセンっ……」

 わたしはかおかくしてはしり出した。

 うしろでは、ウオオオオオオオン! バイクが再始動しどうするおとがした。

 いそがないと、あっといういつかれる。翼をたたんでかるくなったうでるう。

 公園こうえん入口いりぐちえてきた。くるまが一だいまっている。あかいオープンカーだ!

 たすかった……!? そう思った瞬間しゅんかん、車が動き出した。

「ええっ!? なんで!?」

 わたしは無我夢中むがむちゅう便利べんりさんの車を追いかけた。

 下りざかあしが追いつかない。それでも、げる。まえへ、逃げるんだ!

 風をつかんで、前へ──! わたしの体がき上がる。

 ドサッ! 音をててわたしはオープンカーの後部こうぶ座席ざせきに飛びんだ。

「……ってててて!」

「お、おお前──! なななんなんだ!!!」

「なんで!? なんで、逃げるんですか!?」

るか! あと3ふんくらい自分じぶんでなんとかしろ!」

「3分もですか!?」

「うるせぇ! ってえか! お前、なんでそこにってる!?」

「わたし、飛べるんです! この翼で!」

 わたしは、ばたばた翼を振ってそうこたえた。

「はあ!? なら飛んでにげろよ!! 降りやがれ!」

いやです! 便利屋さんこそ、助けるつもりがないのになんでここに来たんですか!?」

「知らねえよ! お前、変身へんしんしてから性格せいかくわってねえか!? 大体だいたい、お前がけたら修理代しゅうりだいが出ねえだろうが! コイツの!!」

 便利屋さんはそううと車のボディをポンポンとたたいた。

 ごん! ごん! ひどい音がした。

「あーっ!? くそったれ!」

 バイクの追手だ。追いついて来て、またもやキックをれたらしい。

 便利屋さんはたまらずハンドルをった。車は広いとおりにおどり出る。

 それをっていたかのように、もう一台のエンジン音がせまってきた。やまの上で見かけたバギーカーだ。

あねさん!」

大丈夫だいじょうぶですか!?」

 バギーにはおとこ二人ふたり乗っている。

「姐さんって言うなー! ハツ、ガツ! はさちよ!」

 バイクとバギーは二手ふたてに分かれ、オープンカーの後ろをならんで走る。

「ハツ! つかまってろよ!」運転席うんてんせきの男が叫ぶ。  

 ガゴッ! バギーがオープンカーに体当たいあたりする。

「やめろおっ!! やめてくれえええっ!」

 便利屋さんは、半泣はんなきでアクセルをみ込んだ。

 2台の車とバイクは山手やまてかう坂をかけのぼる。 

「くそ! なんでおれの車がこんな目にあわなきゃいけないんだよ!! お前のせいだ!」

「なんでわたしのせいなんですか!? ったり、ぶつけたりはあのひとたちでしょ!?」

「うるせえ! お前がいなけりゃ、コイツがベコベコになることなんかなかった! だからお前が弁償べんしょうしろ!」

「えええっ!? こんなのなおせるおかねなんかありません!!」

「知るか! 最後さいごまで逃げ切れば、賞金しょうきん出るだろ! だから、逃げろ! 俺の車のために絶対ぜったい、逃げ切れ!」  

「姐さん! のこりあと30びょうです!!」

「くっそう! 今日きょうはもうダメか!?」バイクの追手が舌打したうちする。

「せっかく一番いちばんクジをいたのに、あの飛鼠コウモリ女! 飛べるクセに、車になんか乗って! ゆるさない!」

 まばゆいひかりがバイクの追手をつつみこむ。

「わあっ! ダメ!」

 〝緋色ひいろの光〟をかんじて、わたしはこえをあげた。

 ビョオオオオオオッ! オープンカーに風がおそいかかる。

「うわわわわ! なんだ、なんだ!?」

 便利屋さんはハンドルをまわして、オープンカーをなんとか立て直す。

「あいつも、お前の同類どうるいか!?」

 バックミラーを確認かくにんした便利屋さんが聞く。

「知りません! それより、なんでわざわざオープンにしてるんですか!?」

 わたしはシートにしがみつきながら文句もんくを言った。

「うるせえ! 俺の勝手かってだ!」便利屋さんがハンドルを切る。

「姐さんあと五秒です!」

「これで、終わりよっ!!」

 バイクの追手がひときわつよくはばたいた。風がこっちめがけて迫ってくる。

「ひゃあああ!!!!」

「うわあああ!!!!」

 オープンカーは風にあおられ、ガードレールにぶつかった。

「きゃあああっ!」

 わたしはオープンカーからほうり出された。

 つ、翼を! わたしはばたこうと前を見た。

 目の前にあったのは、キラキラとかがや横浜港よこはまこう。まるでほしうみだ。

 わたしのまわりにはなにもない。あるのは無数むすうの光だけ。なんて、きれいなんだろう。

 だけど、たかい。高すぎる。

 げ出されたのは山手のがけの上。はるか下には建物たてもの屋根やねが並んでいる。

「ひゃああああっ!」 

 〝あおい光〟がし、わたしの意識いしきうすれていった。

    *      *

ポンプぽんぷ放水ほうすい確認!」「よし!」

 あたりには消防士しょうぼうしの叫び声が飛びっている。

 灰色はいいろかみ少年しょうねんはなてんに向け、においをいだ。

 ガスのにおい、もののけるにおい、たくさんの人間にんげんのにおい。

 だけど、そのなかさがしているにおいが見つからない。

(そんな……バカな!?)

 いつだってこのあたりまでくれば、探し出せた。

 とお記憶きおく刺激しげきする、あのにおい。それがいま、まるごとえている。

 かれを走らせるにはそれで充分じゅうぶんだった。

月澄つきすみ……」彼は再び走りだした。

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