第6話 うそ!? 変身した!?

 公園こうえん石段いしだんした。バイクのライダーがヘルメットをる。なが黒髪くろかみがこぼれちた。

 便利べんり水尾みおりゅうつぎはポカンとしたかおでそれをていた。

 バイクのライダーが意外いがいだったからだ。

 さっきまでうしろのせきすわっていたやとぬしおなどしくらいだろうか? 

 バイクにれる年齢ねんれいだとはおもえない。

「よ、コワいねえちゃん!」げてこえをかける。

「そんなの乗ってて、おまわりさんにしかられねえか?」

平気へいきよ。おまつりだもの……」

「ふーん。そうかい。大変たいへんだな」

 警察けいさつ手出てだししない。そういう意味いみなのだろう。

 あれだけ派手はでにカーチェイスしたのにだれないのはそういうわけだ。

「ところで、コウモリおんなはあっちだ」

 便利屋は、佳穂かほげた石段とは反対はんたい方向ほうこう指差ゆびさした。

「……フン!」

 追手おってむすめはヘルメットをかぶりなおすと、便利屋が指差したまちほうへとはしってった。

しんじた? んなわけないか? あ!? くそっ! くるま修理代しゅうりだいはらいやがれ!」

   *          *

「はあ、はあ、はあ」

 公園の石段をけ上がる。

 ここは本牧ほんもく山上さんじょう公園。ちいさなやまがまるごとひろい公園になっている場所ばしょだ。

 追手のバイクは、ついてきてない。

(ちょっと、やすもう……)

 こわいけど、目立めだつ場所にいたら見つかってしまうかもしれない。

 わたしはみちはずれて、しげみのなかにもぐりこんだ。

 あれ……? なんかへんだ。

 あたりはもうすっかりくらくなっている。なのに、まるで昼間ひるまのように〝こえて〟いる。

 えだっぱの輪郭りんかくむしたち。手に取るようにかんじられる。

 不思議ふしぎなのは、それが『見える』と『聞こえる』のちょうど中間ちゅうかん、どちらでもない両方りょうほう感覚かんかくだったこと。

 ――コウモリは超音波ちょうおんぱ使つかって、っ暗でも飛ぶことができる。

 つまり、これはきっと変身へんしんのせいだ。

 だんだんコウモリになじんでしまっているみたい……。

 そういえば、あのあたまがクラクラする感じが、すっかりなくなっている。


 わたしはかぶこしを下ろした。高台たかだいの公園から見える街のあかりがとてもきれいだ。

(なんで、わたしがこんなに……)

『コルボ』でサインした契約書けいやくしょを思いす。

 どうしてあそこでもどっちゃったんだろう? 逃げることもできたのに。

 ううん――ちがう。わたしはえらんだんだ。

外見がいけんだけなら変えてやる!』結果けっかはとんでもないことになった。

 だけど、ここまで逃げられたのは『変身』のおかげだ。

 追手が来るのもわからず、すぐにつかまったかもしれない。

 階段かいだんころんで、大怪我おおけがをしてしまったかもしれない。

 コウモリをやめたいなら、コウモリにならなきゃいけない。

 逃げないために、逃げなきゃいけない。

 おかしくてちょっとわらってしまう。

 祭礼さいれいはまだ続行ぞっこう中だ。あの追手はきっとあきらめない。

 コウモリはいやだ。だから絶対ぜったい、逃げ切ってみせる! そのためには――。

「どうにかしないと……これ」

 走るのに邪魔じゃまだったコウモリのつばさ

 せめてりたたむことができたら、もっと逃げやすいだろう。

 さっき階段で転んだときは、翼が勝手かってに広がった。だから、きっとうごかせるはずだ。 

 わたしは目をじて想像そうぞうしてみた。

(あのとき感じたのは──おおきな手!)

 そう思った途端とたん、わたしのかんがえたことがコウモリの翼につながった。

 本当ほんとうに大きな手だ。その想像の手を、めいっぱい広げていく。

 ゆびと指のあいだがピン、とびきったような感じがして、わたしは目をけた。

 そこには、くろはなのようにいたコウモリの翼があった。

 ちょっときれいだとさえ思える。うすくて黒くて、本当にコウモリこうもりがさみたいだ。

 うまくできた! 今度こんどは、閉じる。

 やっぱり手のイメージだ。小指こゆびから順番じゅんばんに、かずを数えるように折ってゆく。

「き……きもちわるっ!」

 開いた時と違って、ちょっと不気味ぶきみだったけど、うまく折りたたむことができた。

 これで走る邪魔にはならないだろう。

 ――よし! 決意けついあらたに、わたしはち上がった。

 ちょうど、その時だった。

 ウオオオオオオオン! 

 公園のしずけさをやぶってほのお緋色ひいろかがやいた。来た! やっぱりあの追手だ。

かくれてもムダっ!」

 派手なおとをたてながら、バイクが上からってきた。

 山道やまみちようのバイク!? まさか乗りえてここまで来るなんて!

 わたしは、はやしおくかって走り出した。

 木がたくさんあるし、普通ふつうならバイクは走りにくいはずだから。

 だけど、やっぱり相手あいては普通じゃない。

 木々きぎのあいだを、あっちへこっちへ走るけど、バイクもしっかりついてくる。

 これじゃダメだ。なんとかしないと!

 わたしはあしをつっぱってターンをすると、そのままバイクに向かって走り出した。

「っ! 逃がさない!」バイクの娘がうでを伸ばす。

「ひやああ!」わたしはからだをよじって、その手をかわす。

 間一髪かんいっぱつ、かわせた! わたしはバイクと反対方向に走り出した。

「くそおっ!」

 後で追手の娘がくやしがっている。

 いまのうちだ!

 目のまえに公園の道が見えてきた。戻って、便利屋さんの車に! 

 だけど、突然とつぜん、後ろがまぶしく輝いた。

「え……なに!?」

 かえると、緋色に輝くひかりの中にバイクにまたがった追手の娘がいた。

 その背中せなかには、しろい……とりの翼!?

「奥の手、出してあげるわ! 覚悟かくごなさいっ!」

 ごおっ! 追手の娘の翼がひらめいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る