第3話井藤砦3

 その口汚い罵りに触発され、敵兵の一人が合いの手のように敵をのの知り始めた。

「そうだそうだ!そんな砦ワシ等がぶん取って、黒田砦にしてやるわい!」

 それをきっかけに三郎兵衛隊がワッと沸き立ち、ジリジリと歩を進め、攻撃にも勢いを増し始めた。

 前進を続ける三郎兵衛隊を弓矢と投石が襲う。

「三郎兵衛様、敵の投石の範囲に入りましたぞ!ここは一端止まらねば」

「うむ!皆この場で迎え撃て!」

 戦国前期はもとより、戦国末期まで、鉄砲が登場した後でも、投石は飛び道具の主流であり続けた。

 投石は、弓矢や鉄砲より攻撃の連続性が保て、「弾」となる石は容易に確保出来るうえに、相手の戦意を喪失でき、さほど技術もいらず敵兵を殺傷可能な、優秀な武器なのである。

 三郎兵衛たちは、投石の射程範囲すれすれで踏みとどまり、応戦を続ける。

 これ以上前進をすれば、味方の損失が大きくなる一方、こちらから反撃をする余裕が無くなるのだ。

「くっ!甲四郎の奴め、しくじったか」


 十吉が苦い顔で吐き捨てる。

「十吉よ我が息子を信じるのだ、今頃甲四郎も必死に砦に取り付こうとしておるのだ」

 十吉の息子栗原甲四郎は、井藤砦攻略戦前日にみずから三郎兵衛に、丘の東側斜面から奇襲をかけるべきだと申し出ていた。

 しかし、奇襲をかける頃合いはとうに過ぎている。

 ここは奇襲が無いことも考えて戦略を練り直す必要があるだろう。

「やはりあのような小僧に任せるべきではなかったのです」

 十吉は歯ぎしりをしながら


  ×  ×  ×  ×  ×


 三郎兵衛が井藤砦に向かって前進を命じ、雄叫びを挙げるより数刻まえ。

 栗原十吉の息子、甲四郎は三郎兵衛の家来で、五十半ばの加藤甚六と十人ほどの足軽を伴い、東側の斜面を登り初めていた。

 井藤砦のある小高い丘は、変わった形状をしていて、なだらかな丘の稜線は、東側の端で突然切り崩されたような断崖になっている。 そのほぼ垂直ともいえる絶壁を、甲四郎達は登頂しなければならないのだ。

 斜面近くに来ると、甲四郎は崖登りなど稚児の頃から慣れ親しんだ遊びだ、と高をくくっていた自分を恥じた。

 足場となる土は軟らか、しっかり踏み固めながら登らなければならず、その中に混ざっている小石が尖っていて足の裏に刺さる。

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