【track.09】さよならテンダー
さよならテンダー①
――翌日は早速、VFCで作戦会議をすることとなった。
「まあ、議題が分かりやすいのだけは救いよね」
腕を組むチハツもダイキも、久しぶりにVFCの部室へとやってきた。たかだか一週間と少々いなかったというだけなのに、とてつもなく久々な感じがした。
しかし、やはりというか、リオン達の姿はなかった。寂しいが仕方がない。余分な考えは頭から追い出して、話し合いに集中する。
「そうだな。まずもってユウの目的が『またみんなでVFCの活動をする』って決まってるからな。そこが明瞭なのは分かりやすい」
「……となると、やっぱり過去の記憶とか死因で悩んでいるのを解決するのが、手っ取り早い方法になるのかしら」
言うには易いが、実際は大変だ。それは既にミチルの時に嫌というほど味わわされた。
「だとしても、馬鹿の一つ覚えみたいに未散に再戦するのは得策じゃねぇだろうな……」
「どうして? リオンやムツハと比べたって、居所が分かってて接触しやすい未散の方がやりやすいんじゃない?」
「そりゃそうだけどよ、じゃあどうやって勝つのかって戦略立てるのが目下の問題だろうがよ」
「あー……」
これにはチハツも納得せざるを得ない。そもそもミチルに勝てる道筋がハッキリしていないだけでなく、ミチルがいつまでこちらの相手をしてくれるかも不明瞭だ。次に負けたら愛想を尽かされて、そこで終わりという危険性もある。チャンスは残されているが、それだけだ。後がない。
「だとしたら、消去法で栗根さんでしょうか?」
音枝レンリの主張に、チハツもダイキも頷いた。これも分かりやすくて助かる。
「挑んでいくのは、栗根さん、鳴護さん、撫木さんの順番ですね。でも撫木さんは今、どうしているのでしょうか……?」
「さあね。でもこの世界から出ていっていないなら、どっかからあたし達を監視してるのかしら」
「かもな」
とはいえ、それもあくまで憶測でしかない。推測を組み立ててこの先のことを考えるのも大切だろうが、今は確実な相手と対峙する方法を考えるのが先決だ。
「まずは理音のことを考えようぜ。あいつは別に、行方不明になってるわけじゃねぇんだからよ」
「そうね」
「優先順位はちゃんと念頭に置いておきましょう」
ダイキの言うとおりだ。リオンはただ、寮の自室から出てこないだけなのだから。共同浴場やトイレを使っている形跡や食事を欠かさず摂っていることから、心の症状から部屋の外に出られないのではなく、ユウ達との接触を頑なに避けているだけということが窺い知れる。
ならばユウ達がやるべきことは、いわゆる『北風と太陽』理論だ。どうにかして部屋から出てくるように仕向ければいい。
『リオンをおびき出す方法は、ある』
「え、あるの⁉」
『でも多分、リオンからすこぶる恨まれる方法だとも思う』
「二律背反ってことか……」
「それでも、やらなくてはならないのでしたら、やるべきだと思います――」
音枝レンリは唇を真一文字に引き結ぶ。
「――それがたとえ、痛みを伴う方法なのだとしても」
「先生……」
ダイキやチハツの過去の記憶と死因を知り、音枝レンリも覚悟を決めたのだろう。言うまでもなく、リオンの過去の記憶と死因も、安穏としたものではないはずだ。意図的ではないとはいえ、それを無理矢理暴こうとしているからには、こちらにも傷つける相応の覚悟を持たなければならない。
「それじゃあ、その方法とやらを説明してもらいましょうか。手伝うことがあるなら、あたし達もできることならやるわよ」
『いや、手が必要なのは音枝レンリだけだよ』
「?」
そうして、リオンを部屋から引っ張り出す方法をユウは説明したが……音枝レンリは蒼ざめ、ダイキとチハツは顔を曇らせた。道理だと分かっているつもりだったが、やはりそうなるかと納得するユウは苦笑混じりに眉をひそめた。
「そ……それでも、」
音枝レンリはおっかなびっくりといった面持ちで、それでも声を絞り出す。
「私は、やります。任せてください」
『……はい。よろしくお願いします』
そしてその夜、ユウはリオンを引っ張り出す方法を試すことにした。
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