【夜会話】チハツ



 夜に手頃な時間が空いた。チハツと話でもしようか?


  ◇


 チハツの部屋に訪れると、自然と過去の記憶と死因の話になった。


『チハツは自分の過去の記憶と死因を知った時……その……ショックだった?』

「そりゃそうよ。だって渋谷も新大久保も行ったことないどころか、外出だってままならなかったんだから」


 愚問だったようだ。いや、分かって質問したのだから当然なのだが、それでも泣きじゃくって吹っ切れたチハツに気負った重々しい雰囲気はなく、日常の愚痴をこぼす程度にまで軽減されたようだった。

 「でも……逆にあたしは、今が幸せかもね」とチハツは椅子の上で揃えた膝に、顎を預ける。


「確かに、ここじゃあ渋谷も新大久保も行けないけど、オシャレしてショッピングには行けるし、コーヒーショップの期間限定ドリンクは飲めるし。それになにより、ごく普通の高校生として生活できてる……ま、そのせいであたし、学校の勉強全然追いつけてないんだけどね!」


 「アハハハ!」と大笑する様にも、無理に明るく取り繕うとしている不自然さはない。ユウはほっとひと安心する。


「『人間を知るために始めたことだ』って先生は言ってたけどさ、あたしはそういう不純な動機でもよかったなって思ってる」

『どうして?』


 不純ならば、嫌悪感を抱いていてもおかしくないだろう。どうして肯定するのか不思議で、ユウは反射的に問いかけていた。


「あたしだって不純だもの。普通、学校に通うのは勉学のためでしょ? でもあたしは同級生と仲良くなって、遊んだりするために学校に行ってるんだもの。不純っていうなら、おあいこよ。おーあーいーこー!」

『なるほど』


 不純だとしても、学校に楽しく通う理由が一つでも多くあるならそれに越したことはないと、ユウは思った。


 ――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。

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