エゴ⑤
買い物がひとしきり終わると、集合した六人はコーヒーショップ『ブレイクタイム』で休憩にした。転校初日の死神現象と行き遭った時、チハツが寮を抜け出して買っていたほうじ茶クリームフラッペの店である。シェイクされてしまった味はいざ知らず、品そのものは相当気に入ったらしく、「あたし、ほうじ茶クリームフラッペのレギュラーにしよー!」といの一番にレジへと繰り出していた。
学生のお財布には少々お高い値段設定ではあるものの、豊富な種類と頻繁に入れ替わる期間限定品の真新しさから、人気の絶えない有名店である。席を取ってから一人一人オーダーしに行ったが、手に握られていたのはそれぞれ異なる商品ばかりだった。
抹茶ラテで一服、気のゆるんだトキオが、図らずもぼやく。
「しっかし、今日は俺、撫木いなくてよかったかもなー……」
ともすれば毛嫌いしているとも思われる発言に、「あ、これはハブってるとかそういうんじゃなくて!」とワタワタ否定を加える。
「……単に、俺がアイツのことちょっと苦手にしてるってだけだよ」
『苦手?』
「逆に訊くけど、得意な奴いるかー?」
「私は別にどうとも思ってないぞ」
コールドブリューのアイスコーヒーを傾けるミチルはしれっとしている。
「鳴護さんのそういうところ、俺チョー憧れる! 博愛主義! 素敵!」
「まあ、常日頃からうるさいとは思ってるけどな」
「辛辣な手のひら返し!」
「でも時雄が言ってるのって、そういうことじゃなくない?」
撮影を終えたらしいチハツが、溶けかけたほうじ茶クリームフラッペを口にする。
「クラス違うし、あいつそもそも学校ブッチしてるし、絡む機会なくない? どうして苦手なのよ」
「そういう意味じゃ、苦手って思われても仕方がねぇ特徴ばっかりだな……」
アメリカンのホットで湿らせた唇は遠慮がない。とはいえ、その点ではユウもダイキに同意できた。自由人や気分屋と言えば聞こえはいいが、出席日数ギリギリで引きこもりの出不精という特徴を集めてみれば、不良と呼ばれても差し支えない。
「ウチの学校、結構校則緩めだけどよ、それにつけてもあの奇抜な服装だからなー。いい意味でも悪い意味でも目立つというか、近寄りがたいというか……」
それに付けて、あのフェミニン趣味な風貌である。ミチルとは別の意味で好奇の目を惹くはずだ。ユウとしては、校則に反さない限りならば好きな格好を好きなようにすればいいと思っているが、そう割り切れる人間ばかりでもないだろう。
……だからこそ、引きこもりぶりに拍車がかかり、今回のショッピングの誘いも蹴ったのかもしれないが。
「そう考えると、寮母になったっていう音枝先生の方がもっと大変だよなー。『風邪だ』とか『気分が悪い』とか言われたら、出席日数が大丈夫な限りは見過ごさないといけないだろうし」
トキオの発言に、ユウはハッと思い起こす。断ったムツハはまだしも、音枝レンリはそもそも誘うことができず、残念に思っていたのだった。
『ねえ、トキオ』
「ん、なんだ?」
『――先生にプレゼントしたいんだけど、なにがいいかな?』
せめてもの埋め合わせだ。死神現象としても世話になっている分、なにかを贈ってもバチは当たらないだろう。
「えぇー? それ俺に聞くー? 同世代の女子にも贈り物ダメ出しされた俺に、大人の女性への贈り物ー?」
「先生に贈り物したいんでしょ? ならみんなで考えればいいじゃない!」
三人寄れば文殊の知恵。六人寄れば、もっと凄い知恵が出るに違いない。
「私達も世話になってるからな。少しくらい金も出す」
「俺も出すぞ」
「え、あたしお財布ピンチなんだけど……」
「ならせめて案を出せ」
「えーっとぉ……あ!」
チュゴゴゴゴ、と音を立ててほうじ茶クリームフラッペを飲み切ったチハツが、ひらめいたとばかりに手を打つ。
「先生でしょ? それなら、こんなのはいいんじゃない? 『ジャーニー』の五階フロアにある――――」
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