【選択肢:ダイキとリオンについていく】
昨今はサブスクリプションやダウンロード購入が主流とあって、人の入りが心配されたCDショップだったが、それでも新譜や復権しつつあるというレコードやカセットテープを求めて、各棚に一人は齧りついているほど賑わっていた。
「理音、お前はなにを買いに?」
「え、えっと、折角VFCの活動をしているし、部室にボカソ関連のアルバムが二、三枚あったらいいかなって。コンポは古いのが寮にあるから、それを持っていこうと思って……」
「お前……それ、ちゃんと領収書切っておけよ……」
「え? で、でも、これは僕が勝手に思いついたことだし……」
尻すぼみする台詞に追い打ちをかけるように、「だーかーら! それでも部活に必要なもの買ってるのに変わりねぇだろ! 必要経費だろ必要経費!」とダイキは念を押す。
「いいか、絶対に領収書貰い忘れるなよ!」
「は、はいいいい……」
こうも強く押されては、元々押しに弱い傾向のあるリオンは形無しだ。丸い背中は更に丸く小さくなり、是が非でも守りそうな雰囲気を醸し出していた。
「ったく、世話が焼けるんだからよ……」
頭を掻くダイキに、トキオが「でも、ああも強く言わなくたって、常識的に考えて領収書くらい貰う予定だったんじゃないのか?」ともっともな異を唱える。
「アルバム二、三枚って、そこそこな額するっしょ。バイトの給料日で気が大きくなってる時でも、そんなこと思わないんじゃねぇの?」
「いーや、理音はそういうこと本気でする奴だぞ」
見てきたかのように断言するダイキを、トキオは「本当に~?」と目を細めて疑る。気持ちは分からなくもなかったが、さりとてリオンも常識知らずではない。念を押さずとも、最初からそのつもりではなかったのかとユウも思っていた。
そんなユウの表情を見て、ダイキが一言。
「『なんでそう思う』……って顔してるな」
『!』
「『なんで分かった』……って顔してるな」
「そうそう、お前全部顔に出てるからな。割と最初から」
『なん、だと……⁉』
そんなにも分かりやすかったのか……と考え込むのはひとまず置いておいて、ユウはダイキへと目を配って話の続きを促した。
「理音、アイツ一年の頃同じクラスだったんだけどよ、タチの悪いクラスメイトからパシられてたんだよ」
『え……』
――音枝レンリは、ここを「死後の世界」や「仮想世界」だと言い表しつつも、決して「理想の世界」だとは言っていなかった。高校への未練を解消する場だとは説明を受けたが、現状も厚遇されているとは言いがたい。あるのは、ごく普通の高校生活だ――ごく普通すぎて、当たり前の悪意が現れるほどには。
「その時、アイツなんて言ったと思う? 『自分が勝手に引き受けたことだ』なんて言って、嫌がらせしてる連中庇ってよ」
「んだよ、そりゃあ……」
ダイキが口を酸っぱくしていたのも腑に落ちる。リオンは献身的だが、だからこそ悪人に付け入られやすいのもまた事実だった。
「今年は同じ寮生の馴染みで睨みを利かせられるけどよ、ありゃ性根が治んなきゃイタチごっこだな。気が滅入るわ」
それまで気に留めていなかったユウも、リオンのことが心配になる。その献身性に救われた身としては、悪用されるのは我慢ならなかった……そして、それを受け入れてしまうリオンにも。
「言うまでもねぇかもしれねぇけどよ、お前も睨みを利かせてくれたら助かるわ。俺だけだとうるせぇのが一人いるから、手が足りなくなる」
リオンも大概だったが、ダイキもダイキだ。そういう性格なのを差し引いても、チハツのみならずリオンにまで世話を焼いている。お人好しここに極まれり、だ。
ダイキも人のこと言えないと思う……などとは言えず、顔色でバレていないことを祈りつつ、三人はリオンが戻ってくるのを待った。
『――ところで、ダイキはどうしてCDショップに?』
「おん? 買いたい演歌の新譜があったからだよ」
『渋っ』
「うるせぇ」
そうして帰ってきたリオンは、無事領収書を手にしており、三人はホッと胸を撫で下ろした。
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