【選択肢:ダイキとチハツについていく】
チハツを先頭に列がついた若者向けファッションフロアは、輪をかけて秋の匂いが濃厚に立ち込めていた。行楽シーズンを先取りし、昨今のキャンプブームを取り込んだスポーディなファッションも目についた。色は深く、紅葉した森を思わせる。
そんな時、物見遊山気分で周囲を眺めていたユウの袖を、チハツがグイっと引っ張った。
「ねーねー、今年の春夏はシースルーファッションがトレンドだったけど、秋もまだいけると思う?」
ファッションにあまり興味を持たないユウだったが、曖昧に返事するのも不誠実なように思われた。意見を求められているのだから、どうあれユウ自身の意見を述べなければならない。
【選択肢①】
『いけると思う』
「やっぱそう? 残暑厳しいけど朝晩は冷えるって時には重宝するんだよねー。あーでも、冬の入りくらいになってもまだ着てるのはちょっとダサいか……」
【選択肢②】
『いけないと思う』
「やっぱそう? 冬の入りまで着てるのはちょっとダサいかー。あーでも、残暑厳しい日の朝晩冷えるって時には重宝するんだよね……」
などとブツブツと呟きつつ、手短なショップのセール品とにらめっこしている。ダイキは「着てる意味あんのか、そんなスケスケ」とぼやき、チハツは「なによその言い草!」とキレ、いつもの小競り合いが始まる。流石に今回はリオンがいないため、ユウは静観に徹した。
「な、なあユウ……」
『なに、トキオ?』
「加上さんっつったら、割とこう……イケてる女子の部類でさ……学校ですれ違う時も結構オシャレで……」
『うん』
「実際はこんなんなのか?」
『うん』
「コラーッ! 『こんなん』とか言ってんの聞こえてんだからね、えっと、侑の連れ!」
「む、
「あんまりあれこれ陰口叩いてるようだと、あとで新作のモンブランクリームフラッペ奢らせるわよ! 時雄!」
いつもどおりの傍若無人な物言いだったが、トキオはといえば「あ、名前呼んでくれた……!」と途端に浮かれポンチになっている。これはもう駄目だ、とユウはすべてを諦めた。手の施しようがない。一人、別の店の新商品を物色する。
……そういえば、と記憶を掘り起こす。今日ここに来るまでに、チハツほどではなかったが、ユウも着る服に困ったのだった。引っ越したばかりで備えがなかったといえばそれまでなのだが、最低限過ごすための服装しかなかった。やはりそれは、少し寂しい。
『次またみんなで出掛ける時用に、何着かは買っておこうかな』
日常茶飯事と化した騒がしさを横目で眺めつつ、ユウはマイペースに買い物を終えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます