【track.05】②



「っしゃーっ! ショッピングーっ!」


 チハツの猛々しい叫びが喜びでみなぎる。


 ――新瀬学園都市駅直結の巨大ファッションビル『ジャーニー』は、「日々の暮らしに小さな旅を」をコンセプトに、流行のファッションは勿論のことながら、雑貨、インテリア、コスメ、大型書店、CDショップ、家電量販店、安価なチェーン店を含むレストランやカフェ、ゲームセンター、映画館も居を構え、地下には大型スーパーまでも擁している。


「つっつても、俺達が遊ぶっつったらここ以外ないだろうけどな」


 ダイキが皮肉交じりに毒づくのも当然と言えた。新瀬学園の生徒が遊ぶとなれば、まず真っ先に名前が挙がるのがここだからだ。なにせ徒歩圏内という望外の近さも魅力的だが、なによりなんでも揃う利便性が大きな理由だった。


「まあでも、ここで大概揃うだろ。有名どころは概ね軒を連ねてるし、コアなブランドが欲しければ、わざわざ都心部へ足を延ばさなくてもネット通販があるしな」


 ミチルの言うとおり、今時はネット通販でなんでも手に入る時代だ。そういう意味では、音枝レンリも青春を謳歌できるよう、十二分に図らってくれているのだろう。遠巻きながら心遣いが垣間見えた。


「んじゃ、まずどこ見るー?」


 入店してつぶさに振り返ったチハツが声を上げる。


「あたし、ファッション見たいんだけど! 大来は荷物持ちしてよね!」

「はいはい。ここいらで二手くらいに分かれる感じかね。後で連絡して落ち合おうや」


 そうぼやきながら、ダイキがチハツに引っ張られていく。どうやら若者向けのファッションフロアに行くらしかった。グイグイとエスカレーターへと向かっていく。

 リオンといえば、入り口前にある各階案内の書店に目を這わせていた。その隣で、ミチルも「私も新しい参考書が買いたいな」と呟いていた。どうやら上層階にある大型書店へと向かうらしかった。


「……なあなあ、ユウ」

『なに、トキオ』

「俺、一人だと気まずいからさ、お前が行く方についていくよ」


 なんとも妙なところで正気だ。鼻の下を伸ばしながらミチルの行く方行く方についていくものだとばかり考えていたために、そんな理性がひと欠片でも残っていたのかと、ユウは驚愕に打ち震える。戦々恐々としながら、『そ、そう……』と曖昧に返答した。それを肯定と見なしたのか、トキオは親鳥を待つ雛鳥のように大人しく後ろに控えた。一種、異様な光景である。別の方へ気を取られているとはいえ、他の四人に不審がられていないのが不思議なほどだった。


 ――ダイキとチハツは若者向けファッションフロアへ、

 ――リオンとミチルは大型書店の方へ、

 それぞれ向かうらしかった。

 そして、ユウがトキオと共についていくのは――、


  【選択肢:ダイキとチハツについていく/リオンとミチルについていく】


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