【夜会話】音枝レンリ



 音枝レンリの部屋で談笑に耽っていると、ふと「好きな食べ物」の話になった。


「好きな食べ物ですか? そうですね……そう、ですね……」


 食事を必要としないバーチャルシンガーの彼女には愚問だったかもしれないが、音枝レンリはうんうん唸りながら頭をひねっていた。数少ない食べたものの記憶から、好きなものを導き出しているのかもしれない。

 しばらく時間が経ち、意を決したように表情を引き締めた音枝レンリが口にする回答は――。


「特にありません」


 これにはユウもガックリと肩を落としてしまう。


「……すみません。期待外れでしたよね」

『いえ、こっちが無理を言ったようなものなので……』

「ですが……そうですね、」


 音枝レンリは顎に手をやって一言。


「皆さんが食事をしているのを見ているのは……単純に好きですね」

『――――』

「これも答えとは言えなかったかもしれませんね。すみません」

『いいえ、凄く素敵な答えだと思います』


 人の間でも、ままある答えだ。料理をすること自体が好きなわけではなく、自分が作った料理を食べて喜んでいる顔を見るのが好きだという。元より人が喜んでいる様を美しいと感じる彼女なのだ。どんなフルコースよりも、それこそが心を喜ばせるものなのかもしれない。


「ありがとうございます。今度、君本さんの歓迎会を兼ねて、なにかパーティのようなものが催せたらいいですね。ピザなんかをデリバリーして」

『いいですね。美味しそうだし、凄く楽しそう』


 ――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。


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