【夜会話】音枝レンリ
音枝レンリの部屋で談笑に耽っていると、ふと「好きな食べ物」の話になった。
「好きな食べ物ですか? そうですね……そう、ですね……」
食事を必要としないバーチャルシンガーの彼女には愚問だったかもしれないが、音枝レンリはうんうん唸りながら頭をひねっていた。数少ない食べたものの記憶から、好きなものを導き出しているのかもしれない。
しばらく時間が経ち、意を決したように表情を引き締めた音枝レンリが口にする回答は――。
「特にありません」
これにはユウもガックリと肩を落としてしまう。
「……すみません。期待外れでしたよね」
『いえ、こっちが無理を言ったようなものなので……』
「ですが……そうですね、」
音枝レンリは顎に手をやって一言。
「皆さんが食事をしているのを見ているのは……単純に好きですね」
『――――』
「これも答えとは言えなかったかもしれませんね。すみません」
『いいえ、凄く素敵な答えだと思います』
人の間でも、ままある答えだ。料理をすること自体が好きなわけではなく、自分が作った料理を食べて喜んでいる顔を見るのが好きだという。元より人が喜んでいる様を美しいと感じる彼女なのだ。どんなフルコースよりも、それこそが心を喜ばせるものなのかもしれない。
「ありがとうございます。今度、君本さんの歓迎会を兼ねて、なにかパーティのようなものが催せたらいいですね。ピザなんかをデリバリーして」
『いいですね。美味しそうだし、凄く楽しそう』
――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます