【夜会話】ムツハ



 ムツハの部屋で談笑に耽っていると、ふと「好きな食べ物」の話になった。


「ボクは見てのとおり、このストロベリーチーズケーキ味が一番好きかな~!」


 ムツハは机の横に置いてあった円柱ケースを抱える。中にはみっしりとロリポップキャンディのストロベリーチーズケーキ味だけが詰まっていた。


『ストロベリーチーズケーキじゃなくて、ストロベリーチーズケーキ味のキャンディが好きなの?』

「勿論実物も好きだけどさ、いつだって食べられるわけじゃないし、あとボク結構太りやすい体質だからさ~。こう見えて普段から節制してるんだよ? 小腹が減ってもごまかせるし、好きな味だし、一石二鳥ってわけ!」

『なるほど』


 身に着けているのが可愛らしい服ばかりなのだ。サイズ規定もシビアなのだろう。


『でも食べた分を運動したらいいんじゃない?』

「ボク運動嫌いだも~ん」


 ムツハは目に見えて毛嫌いを尖らせた唇の先に乗せる。


「確かに大来とか未散みたいに運動好きなら、スイーツをいくら食べてもいいんだろうけど、それで筋肉ついてサイズアップしちゃったら元も子もなくない~?」


 そう簡単にボディラインが変わるほど筋肉がついたら、世の中のダイエッター達は困っていないのではないのか……と思ったが、ユウは蛇足だろうと口をつぐんだ。言わぬが花、ということもある。そもそもインドアな性格のムツハを説得して外に連れ出そうというのが無理難題なので、チープなキャンディの甘さで満足するならそれでいいのだろう。


「侑はどんな味好きなの? 味変の参考に聞いておこうかな~」

『最近売ってたかな……えっと、バニラソーダ味なんだけど……』


 ――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。


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