【夜会話】ダイキ



 ダイキの部屋を訪れると、部屋の主はダンベルを用いた筋トレに興じていた。


『やっぱり筋トレ好きなの?』

「好きかっつうか……毎日やってることだからな。最早好きとか嫌いとかじゃない習慣じみてる気がするな」

『なるほど、ライフワーク』

「横文字で言うとそんな感じかもな」

『じゃあ今度のショッピングでも筋トレ系を買う予定だったり?』


 なにげなく訊いたつもりだったが、ダイキは「そうだな……」とダンベルを置いて考え込んでしまった。


「わ、笑わねぇか……?」

『特に人の趣味を笑ったりするつもりはないけど……なに、どうしたの?』

「なんでか好きなものがあんだよな……それがよ、その……将棋」

『渋っ』

「うるせぇ」


 とはいえ、若手棋士の活躍目覚ましい昨今だ。学生で好きな人も少なくないだろう。だがダイキの部屋には将棋グッズがあるようには見受けられない。それがなんとなく不思議だった。


「まあ、自分でも好きかどうか分からねぇからな。そういう意味じゃ、本腰を入れてやったりするわけじゃねぇし、趣味とは言えないかもな」

『そういうものなの?』

「そういうもんだ」


 ダイキの不可思議な趣味嗜好の話を聞き、より彼のことを知れたような気がした。


 ――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。


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