【track.03】⑤
死神現象退治も大まかに終わり、そろそろ帰ろうかとユウ達は昇降口前に集合していた。
「そういや、あのホワイトとかって奴がつけたグラウンドのヒビ割れ、もう直ってるんだな。早いな」
「はい。ここは私が管理する仮想世界なので、様々な隠蔽工作も難なく行うことができます……まあ、本来はそんなこと、しなくて済む方がいいんですけれどね」
「仕方ねぇだろ。あんなデケぇ死神現象が現れる方が予想できねぇって」
「いえ……あれは死神現象などではありません」
『は?』
ユウも耳を疑う。あれが、死神現象ではない……?
ならば一体なんなのか。それを問いかけようとした時、空気が一変した。
『…………?』
死神現象が現れた――だけではない。なにかがおかしい。形容しがたい違和感に、うなじの産毛をもてあそばれているかのような感覚に陥る。
「おい、あれを見ろ」
ミチルがあちこちを指差す。周囲からぞろぞろと死神現象が集い、一つの群れを形成しつつあった。
「■■■■……」
「■■、■■■■……」
『な――』
これまで何匹かの死神現象がまとめて襲い掛かってくることはあったが、明らかになんらかの意志に突き動かされるようにして統率されることはなかった。あり得ない。だが眼前に広がっている未知の光景に、自然と一同は背中を預ける形で身を寄せ合った。
群れ成す異常のその向こう――ひと際大きな異形が姿を現した。
「――我が名はレッド!」
高らかに、敵意の塊が口上する。赤毛の馬にまたがり、大剣を帯びた騎士だった。赤銅色の西洋鎧が、月明かりを浴びてこうこうと輝いている。死神現象の群れは、あのレッドなる存在を中心に形成されつつあった。
「とにかく、あれがなんなのかって話は後だ」
警戒を怠らず、ダイキが囁く。
「今はこの状況を打破するのが先だ……いいな?」
一同はバラバラに頷き返す。窮地を脱さなければ、帰ることもままならない。皆同じ気持ちだった。
「でもどうする? あの群れをどうにかしないと、レッドとかいう奴に攻撃が届かないぞ」
【選択肢】
『群れがあるうちは、敵の攻撃も届かない。風穴を空けて一気に畳みかけよう』
『群れを分断して敵の力を削ぎ落し、隙を作ろう』
「……ったく、最初の時も思ったけど、お前って結構なクソ度胸だよな」
「で、でも、侑の作戦は正しいと思う……やろう」
「そうだな。指示は任せるぞ、リーダーさん!」
ミチルの皮肉めいた掛け声も、力強く背中を押してくれる。
「いいじゃん、リーダー。ボクもその作戦に乗るよ」
「今日を超えなきゃ、週末のショッピングが叶わないじゃない! 絶っ対ギャフンと言わせてやるんだから!」
俗っぽいチハツの理由も、今や大切な生きる要因の一つだ……そうだ。まだ自分は、この仲間達のことをなにも知らないままでいる。それは途轍もなく勿体ないことだ。
背中を預け合える人達のことを知りたい――その切なる想いが、チハツの【ココロのウタ】をより大きく響かせる。エレキギターが鋭く貫くロックは、暗視ゴーグルにライダースーツを着込んだスパイやハッカーを彷彿とさせる姿をクールに演出した。
『――みんな、行こう!』
「ええ! 高らかに奏でましょ、【ココロのウタ】――‼」
【戦闘】
ぐらり、と巨躯が揺らぐ。
「無念……敵ながら、天晴……!」
そう最後に言い残し、レッドは砂塵と化して消滅した。
「っしゃーっ! ショッピング確定ーっ!」
息も絶え絶えだというのに、元気を全身にみなぎらせてチハツが吼える。「JKが流行に命懸けるのは当たり前」だと最初に堂々のたまっていたが、単なる強がりではなく、心からの本音らしい。信条、あるいは信念と呼んで相違なさそうだった。
「未散! 約束、ちゃあーんと守ってくれるわよね?」
「はいはい。いくらでも付き合ってやるよ」
「ぃやったーっ!」
「……そういや、さっき言ってた『ホワイトや今のレッドが死神現象じゃない』って話、あれってどういう意味なんだ?」
顎から垂れる汗を拭うダイキに、「分類が違う、ということです」と音枝レンリが言う。
「『分類が違う』……?」
「なになに、犬と猫が違う~みたいなコト?」
「近い話ではあります。『死者である皆さんを死に返そうとしている』という目的の観点で、類似した存在であることは確かですが、同一ではありません。これまでの死神現象が不本意なバグであるならば、あれらはウイルス――人為的な悪意から差し向けられたものです」
『人為的な、悪意……』
それがホワイトやレッドなどと名乗った存在達の親玉、ということになるのだろうか。現実と見紛う仮想世界に介入し得る敵……途方もない想像だが、身を守るためにもVFCの活動は欠かさずにやっていかなければならないだろう。そして連携という意味では、チハツ発案の休日ショッピングの親睦会も、決して無意味ではなさそうだった。
『あ、そうだ』
ユウはポケットにしまっておいたスマホを取り出し、チハツを含めた全員に話しかけた。
『その休日ショッピング、呼びたい人が一人いるんだけど……いい?』
「もっちろん! 人が多い方が楽しいだろうしね!」
チハツは快く喜色満面の笑みを浮かべる。他の面々も異論はない様子だった。
『うん、ありがとう。転校して初めての友達だから、是非とも呼びたくって』
ユウはスマホを操作して、チャットアプリでメッセージを送信する。
――『週末、寮生みんなでショッピングに行くんだけど、トキオも来ない?』
返事は勿論、即答だった。
――「絶対行く‼」
◇
○加上千初(カガミ・チハツ)
死因は『■■』。■■性の■■だった。生まれつき■■で■■にも満足に通えず、■■もできず、性格も今とは比べものにならないくらい■■■■。最期は■■を夢見て亡くなった。享年■■歳。SNSでインフルエンサーの投稿を見ることが■■の■■行為であり、■■に命を懸けるほどの■■と■■は死後の現在にも影響している。
◇
夜に手頃な時間が空いた。誰かと話でもしようか?
【選択肢:ダイキ/チハツ/ミチル/リオン/ムツハ/音枝レンリ】
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