【夜会話】チハツ



 チハツの部屋にやってきたが、部屋の主は来客にも素知らぬ顔で、ベッドに寝転がりながらスマホをいじっていた。


「おーっす、暇なのー?」

『うん。そっちこそ』

「あたしはSNSパトロールで忙しいの! 一日でもサボると流行って変わっちゃうんだから!」


 跳ね上がるように飛び起きたチハツは、ぐいとユウにスマホを見せつけた。紋所が目に入らぬかのポーズだった。


「ここで情報収集を怠ると、今度のショッピングだって無駄足になっちゃうでしょ!」

『な、なるほど……』


 流行にうといユウには対岸の火事じみていたが、それでも熱意は伝わってくる。その火花散る熱さに、少し気圧される。


『でも意外。そういう人ってネットショッピングで終わっちゃうイメージがあったから』

「そうかもしれないけど、あたしは実物見るのも好きよ。だって実際に触ってみないと、布の厚さとか糸の始末とか、そういう細かいところが分からないもの」

『そうなの?』


 ユウにとって、それこそ意外な発言だった。流行に興じるのが一番であり、品質などは二の次三の次だと思っていただけに、目利きまで行うのは予想外だった。目を白黒させるユウに、「そうよ!」とチハツは熱弁する。


「そういうところで判断しないと、一週間でソールが抜けるとか、届いて着てみたらサイズが微妙に合わないとか、絶対あるんだから!」

『なるほど……』


 失敗は成功の母と言うが、数々の失敗を積み重ねての経験談だったのだ。熱もこもって当然だった。


「侑もなにか買う時はあたしに相談するといいかもよ」

『うん。なにかあった時にはよろしく』


 ――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。


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