ハロービルダー②
「――なあなあユウ、部活動なにするか決めたか?」
あまりにもタイムリーなトキオの話題に、午前中から図らずも溜め息が漏れ出そうになってしまった。変な呻き声を一つこぼして、ユウは『うん、まあ……』と曖昧に答えた。授業開始前の世間話だ。少しくらい相談してもバチは当たらないだろう。
『先生肝入りの、バーチャルシンガーファンクラブって同好会。入るところがないなら是非とも、って勧められた。内申点もあるし、そこにしようかなって』
「ああ、あそこか」
嘘混じりの入部理由だったが、トキオは怪しむことなく頬杖をつく。
「確か昨年までは三年生が所属してたらしいけど、卒業で抜けて名前だけ残って、部員絶賛募集中だって現状は聞いたな。先生は当時からの顧問だから、どうしても復活させたいって聞いたぜ」
『そうなんだ……』
音枝レンリがこの世界の創造主である以上、どこまで実際にあった出来事なのかは分からないが、寮生のまともに出席している人数が同好会成立に必要な五人ぴったりである辺りは妙に真面目だなぁと、おかしな話だが感心してしまった。
「けど、いいんじゃねぇ? 折角の学生生活なんだしよ、青春っぽいことはするに越したことはないんじゃないか。ま! 俺は万年バイトマンだけどな!」
ガハガハと豪快に笑うトキオを見ていると――ふと、チハツが言っていたことが思い浮かんだ。
――「貴方達以外の生徒や教師、その他の人間はNPC――イミテーションです」
――「チカとルリにも電話して、『偽物なんかじゃないよね? ちゃんと人間だよね?』って何度聞いてみても、『ごめん、よく聞こえなかった』の一点張りで……全部、あいつの言ったとおりだった……‼」
『…………』
死神現象は現実なのだろう――それはユウも体験した。だがいまだに、世界がこの学園都市だけなのだということが信じられなかった。チハツがそう選択したように、「無理に信じる必要はない」と、あの音枝レンリは言うだろうか。しかしこの学園都市を訪れて最初の友達は、どうしても存在を信じたかった。
『あのさ、トキオ……』
「ん? なんだよ、改まって」
息を吸う。息を吐く。
それが合図。
『トキオはちゃんと人間で、偽物なんかじゃないよね……?』
トキオはきょとんとユウを見つめてから、一言。
「ごめん、よく聞こえなかったわ。なんて言ったんだ?」
『――――』
伝え聞いていたものと違わぬ返答に、息が詰まる。かすかに指先が震える。ただちょっと厄介な怪物が夜に
『……ううん、なんでもない』
それが瓦解していく静寂を聞き届けながら、授業開始のチャイムが鳴る。教卓に上がった数学教師が来週の小テストを宣告するが、ユウの心には一切響かない。
『――――っ』
窓の外、胸がすくほど澄み渡った青空を眺めながら、音もなく涙が流れた。
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