【夜会話】ムツハ



 コンコンとノックすると、「はぁ~い。誰~?」という間延びした声がかかった。『君本侑だよ』と返すと、「いいよ~入って~」と促された。お言葉に甘えて入出すると、ユウは思わず『わあ……!』と無意識に声を上げてしまった。

 驚いたのは、微に入り細を穿った部屋のコーディネートだ。全体をやわらかなペールピンクで統一しつつ、要所要所にはアクセントとして赤に近いピンクを配色している。寝具などの布類にはレースを配し、床にはハート柄のラグが敷かれていた。インテリア雑誌に掲載されていそうなクオリティだったが、机の横に置かれたロリポップキャンディの円柱ケースだけは、インテリア的ではないムツハの趣味嗜好が表れていた。


「どや」

『凄い……!』

「自慢の我が部屋だからね~。お褒めに預かり恐縮です」

『でも凄い。本当に凄い』


 ユウも語彙力をなくすほどには、どんな美辞麗句も言い尽くされてしまっているように思われた。真っ直ぐな言葉で褒められて、ムツハも照れ臭そうに胸を張った。


「やっぱり自分が過ごす部屋だからね。自分が好きなもので満たされていてほしいし、そっちの方が過ごしてて気持ちがいいでしょ?」

『そうかもしれないけど……普通はもっとバラバラになりそう』


 それが出来るのは、好きなものがなんなのか正しく把握しており、統一感がある……あるいは与えられるものに限るだろう。行える当人の技量にも委ねられそうで、ユウは殊更関心を深くする。


「もう、褒めてもなにもでないよ……って、出せるのはこれぐらいだけど」


 差し出されたのは、ケースに収められていたロリポップキャンディだった。これまたピンクのパッケージには「ストロベリーチーズケーキ」と書かれている。


『ありがとう』

「どういたしまして」


 ――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る