【夜会話】ミチル
コンコンとノックすると、「誰だ」と警戒を滲ませる声がかかった。
『えっと、君本だけど』
「なにか用か?」
『なにか用ってわけじゃないんだけど、時間があるから話でもできないかなって……』
「なんだ、そんなことか」
そんなやり取りを差し挟んで、やっと扉が開かれた。
「入っていいぞ」
『お邪魔します――って、』
一歩入って早々に、ユウは度肝を抜かれた。
『えっ……え?』
「なにか変か?」
『いや、だって……』
ない。
物がなさすぎる。
個性が現れているのは寝具ぐらいで、後は机に積まれた教科書で部屋の主が高校二年生だと判別できるぐらいだ。正直、部屋の隅に置かれたヨガマットでは、インテリアとして頼りなさすぎる。なにより物がなさすぎた。綺麗な床がこんなにも広々と見えるなんて、ユウは思いもしなかった。
『えっと……今流行りのミニマリストって奴?』
「なんだそれ」
怪訝な眼差しは、別にそういうつもりではないと物語っていた。
「今はスマホ一台で娯楽もなにも解決してるだろ。そんなに珍しいか? ……まあ、服もあんまり持ってないし、使い終わった参考書なんかはクローゼットにしまってあるからな。それに用の済んだプリントなんかはこまめに処分してるから、人によっては殺風景に見えるかもしれない」
十人中九人は殺風景だと答えそうな部屋だったが、空気を読んでユウは二の句を継ぐのを止めた。
「お前の部屋だって似たようなもんだろ? 今度見せろよ」
『まあ、いいけど……』
――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。
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