【夜会話】ダイキ



 コンコンとノックすれば、「空いてるぞー」と声がかかった。ゆっくりドアノブをひねれば、部屋にはくつろぐダイキがいた。


『へー、ダイキの部屋ってこういう感じなんだ』


 ミニマルというよりは、肩ひじ張らずにシンプルな部屋だった。着替えが散乱していることもなく、社会人で一人暮らしをしている男性の部屋というのが第一印象だろうか。開いているクローゼットにはアメリカンカジュアルなファッションが見受けられたが、それも言ってしまえばファストファッションの王道と言い換えられるだろう。もっと遊び心溢れた部屋を連想していただけに、ユウは違いの興味深さに感嘆を漏らした。


「別に、普通の部屋だろ」

『もっとゲーム機とかファッション雑誌とかが溢れてるかと思ってた』


 むしろ、机に置いてあったのは教科書に載っているような近代文学である。


『でも筋トレグッズがあるのは予想通りだったかも』

「そうか? ただの安物のダンベルだぞ」


 あくまで学生寮の一部屋でしかないので、大がかりな筋トレ用具は置けないのだ。むしろコンパクトで場所を取らないダンベルは、せめてものアイテムなのだろう。


「まあでも、ランニングとかしないこういう夜には使ったりするかもな」


 両手にダンベルを握り締めると、パフォーマンスとして上げたり下ろしたりを繰り返してくれた。ユウは『おおーっ』と拍手を贈る。


「今度はお前の部屋も見せろよな」

『面白いものは特にないよ?』

「俺の部屋だって面白いもんは特になかっただろ。その人となりが見えるだけで、部屋って結構面白いもんだよ」

『そうかな?』

「そうだよ」

『じゃあお茶請けでも用意して待ってるよ』

「いや、そこまでしなくても……」


 ――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。


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