【夜会話】チハツ
コンコンとノックすると、しばらくドタバタと部屋の中で騒ぐ音が聞こえた。それが止むと、やっと「い、いいよー開いてるー」と返答があった。ユウは恐る恐るドアノブをひねると、そこにはそれなりに片付いた年頃の女子の部屋が広がっていた。
『へー、チハツの部屋って感じだね』
「で、でしょ? へへん」
チハツが胸を張るとおり、好きな黄色を主体としつつ、ファッション雑誌やハーバリウムがあり、可愛らしいぬいぐるみもあれば男性アイドルのアクリルスタンドもあるなど、雑多ながらも統一感のある部屋をしていた。
『あれ、でも』
――しかし、ユウは気づいてしまった。
『なんか、ここから音が……』
――備え付けのクローゼットの中から、異音が聞こえたことに。
「わーっ! 駄目、開けないでーっ!」
開ける開けないに関わらず、蛇腹式の扉に手を掛けた時点で勝敗は決していた。弾けるように、中から着替え、くしゃくしゃになったプリント、平積みになった教科書の山などが噴出した。あれよあれよという間にユウは呑み込まれ、オシャレな部屋は一瞬にして足の踏み場もない惨憺たる有様となった。
「開けないでって言ったのにー!」
『いや、でもこれは……』
ユウが開けなくとも、時間の問題だったのではないのか……? チハツのクローゼットの耐久力に対する過剰なまでの期待値に疑問符を浮かべつつ、ユウは取り敢えず部屋の真ん中を確保する。
「もう、今度侑の部屋も見させてもらうから!」
『いや……それは別にいいけど……』
それより断捨離する方が先なのでは? 言わぬが花だとは分かりつつも、ユウは首を傾げる。
――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。
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