第19話 モテない男とスーパーマーケット②
え?
ちょっと待て...
高崎さんがカレーを作った場合、余っちゃうと思うから、食べますか?
「......」
つまり、俺は今、レトルトのカレーを買おうとした。
でも、買わなくても、高崎さんが作ったカレーの余りを、俺に分けてくれるという意味の発言...だよな。
やばい。ちょっと耳に聞こえてきた言葉が想定外すぎて理解に時間がかかる。
でも、そういう意味。そういう意味で合っているはずだよな...。
「す、すみません。私が作ったカレーなんか食べませんよね。出すぎた真似をしました。申し訳ないです!」
え?
やばい。考えすぎて黙ってしまって...
「い、いや、食べたいか食べたくないかで言えば、めちゃくちゃ食べたいです」
って、またやばい。
断ったら断ったでなんか失礼かと思ったら反射的に...。
こんなの、もし社交辞令だった場合は完全に事故。急いで何か探りの言葉を...
と言うか、そもそも高崎さんが俺に料理を作ってくれる状況ってどういう状況?
「ふふっ、じゃあ頑張って作りますね!進藤さんは甘口派ですか?辛口派ですか?」
え、あ、え...
「中辛...派です」
駄目だ。隣を今も歩く彼女の、俺をのぞき込むようにニコッとみせたその笑顔も、その彼女の発言の意図も、今のスーパーでのこの状況も、あらためてもう何が何だかわからない。
要は思考の完全停止状態...。
「私も中辛派です!よかった!」
だから今、俺の脳が確実にわかっていることはとりあえず一つ。
そう。隣の高崎さんの破壊力が色々とやばい。
それだけだ...。
まさか、俺がマンションの隣人から「ご飯を作りすぎちゃったんで、もしよかったらどうぞ」的な漫画見たいなイベントを享受できるなんて...
しかも、それがこの高崎さん...
妄想はしたとしても、実際にそうなる想像なんてできたはずがない。
まず、そもそもの話。高崎さんが隣人になるなんて本来であればありえなさすぎることだから。
とりあえず、金は出す。もちろん出す。
カレーを入れてもらう用のタッパーももちろん俺が買う。
カレー以外のこの買い物の料金も全て出す。
「進藤さんは何か嫌いな食べ物とか食べられないものとかってあったりしますか?」
「いや、何でも好きです。食べられます。ありがとうございます」
しかも、こういう気遣いも完璧。
やっぱりこれ、夢なんじゃないかな...。本当に。
「あ、かご持ちます。貸してください」
「いえいえ、そんな...」
「いえいえ、そんな色々と申し訳ないので」
とりあえず、一応お金を払う時のことも考えて俺は彼女の手からカゴをもらいうける。いや、本来であればもっと早くもらっておくべきだったな。
こういうところがやはり俺がモテない要因。
どう考えても彼女とは釣り合わない要因だ。
「ありがとうございます。でも、よかったです。昨日引っ越ししてきたばかりなので、家の中もまだ綺麗なので安心してくださいね」
そう。あらためて振り返るが彼女は昨日俺の家の隣に引っ越してきた隣人。
だから帰りも必然的に一緒。
もちろん、こういう場合、帰りに買い物袋も全部俺が持つ必要があることぐらいはさすがの俺も理解している。そこは安心してもらいたい。
って、あれ? 安心?
ついさっき、高崎さんは何て言った...
家の中も綺麗なので安心してください...?
「.....」
それって...。
い、いや、ないよな。ないない。
さすがにない...よな。
え?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます