第14話 モテない男といつも通りの休日の朝?
あぁ、気持ちのいい、いつもの休日の朝だ。
本来であれば、この快晴の空の下で俺は今頃...。
「.....」
いや、違う。これが本来。これがまさにいつも通りの俺の朝だ。
そんなことを考えながら、ダンベルで軽くハンマーカールを行いながら、朝の情報番組を眺める俺。
独り身かつ、インドアである俺にとっては別に参考になるわけではないが、芸能人が楽しそうに旅行をしている姿などをテレビで見るのはそれなりに好きだ。
あと、自宅のあるマンション6階。この窓から映る外の景色も、晴れた日はそれなりに見晴らしがよく気持ちが自然と穏やかになる。
ただ、今日はちょっと、隣の部屋が朝から騒がしい気がするのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではないな。
あれ? でも、隣の部屋って、確か今は空いていて誰も住んでいなかった気が...。
そうか。思い出した。
確か、誰かが隣に引っ越ししてくると管理人から話を聞いていた気がする。そして、それが今日だったのか。
完全に忘れていた...。
とりあえず、騒音をだしたり、ルールを守らないような変な人でなければ誰でもいい。
「何でそんなに機嫌悪いんだよ。父さんは今日って伝えてただろ。一応交渉はしたけど、さすがに急な変更は引っ越し業者さんも無理だったんだよ」
「私は確かに来週って聞いてたし、任せろってしつこいから手配もお父さんに任せていたのに。まあ、もういいけど」
何だろう。静かに耳を澄ませば、微かに玄関の外からは男の声と女性の声が両方聞こえてくる。
「隣の人にはもう挨拶はしたのか? どんな人が住んでいるんだ?」
「まだ知らないわよ。この後に行くんだから。男性ってことだけ管理人の人からは聞いてるけど」
「大丈夫なのか。変な奴じゃないんだろうな」
「もう。お父さんうるさい。隣の人に聞こえたらどうするのよ。それに私もいい歳なんだから大丈夫だって。今日だって、ついて来なくていいってあれだけ言ったのに」
「いや、娘の一人暮らしだぞ。そりゃ心配するだろう。それに、何で本当に今日はそんなに元気がないんだよ。何かあったのか?」
そう。さっきから俺の耳に聞こえてくるのは完全に親子の会話...。
「......」
とりあえず...大丈夫です。お父さん。
あなたの娘さんがどこの誰だかは存じ上げませんが、この進藤 力也、生まれてこのかた30年。何の自慢にもなりませんが女性に手をだしたことも出されたこともありませんので。
その証拠に、いいのか悪いのかはわかりませんが、少し前までそこに住んでいた女性とも挨拶以外の会話をまともに交わした記憶がありません。
まあ、俺が変な奴かどうかと言われれば、もしかしたら変な奴になるのかもしれません。
さらに言えば、俺は残念ながら隣人ガチャの当たりではないと思います...。ただ、外れでもないとは思います。人畜無害とだけ言っておきます。
そんなことを考えながら俺は、今度はプッシュアップバーで腕立て伏せにいそしんでいるところ。
とりあえず、聞こえてくる会話的にも、隣に引っ越してくるのは女性で確定か。
どんな人だろう...。
もしかして、学生時代のクラスメイトとか...。
それとも、部活で後輩だった子とか...。
いや、他にも、電車でいつも同じ車両になる女性とか...。
そして、そこから隣人関係がさらに発展して...
なんて、あるわけないだろうが。バカ。
自分で言っていて虚しくなるが、相変わらず思考がキモくてお花畑すぎるな、俺。
昨日それで虚しすぎる思いをしたのをもうこの容量の少ない脳は忘れてしまったのだろうか。
そう。この俺に運命の出会いなんてあるわけないし、あっても何も起こらないし、起こせない。そもそも実力がない。
もうわかりきっていることであるにも関わらず、いつもいつも俺はあまりにもアホすぎる。
まあ、ある意味では幸せな脳なのかもしれないが、さすがにあらためて考えてもだ。高崎さんはやはり俺なんかとは釣り合わなさ過ぎてどっちにしろ絶対に無理だったな。
あまりにもリアリティのない出来事に完全に俺は自分の現実を見失っていた。
とにもかくにもだ。結局、俺はこういう独りの休日を一生繰り返していくのだろうし、別にそれで問題はない。
そう。俺は進藤力30歳。
生涯独身の男だ。
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