第11話 モテない男は悩みに悩む

んー


 『凄く良さそうな居酒屋ですね。予約しようと思うのですが、高崎さん的に今月のどこかの金曜日はどうですか?』


今、俺はひとり自宅のベッドの上で、そうlineに打ち込むだけ打ち込んで、高崎さんへの送信を一旦保留している状況。


夜の8時。いい歳した大人であるにも関わらず俺は、かれこれそれなりの時間、情けなくもこの状態でずっと悩み続けている...。


もう何度、メッセージを校正したかわからないが、ちょっと色々と考えすぎて頭がおかしくなってきたところ...。


例えば、当初は金曜日のって表現でいこうかと思っていたが、という文字を入れてしまうと何か、下心があるみたいに捉えられてしまうと嫌だし、他にも、なんて言葉も入れようと考えたりもしたけど、もし、もしこれが万が一、いや、億が一、そういう誘いだったとした場合、それはかなりの失礼になるから...すぐに消した。


いや、でも彼女が誰かと二人でご飯に行ったなんて噂はやっぱり皆無だし、でも、これはただのあの団子のお礼で俺がするべきものだし、それに、提案してきたのは彼女だし...。いや、そもそも金曜日っていう設定が次の日が休日ってことでそんなつもりはなくても女性に下心を感じさせてしまうのか...?


あぁ、駄目だ。30歳にして、そっち系の経験値がなさすぎる。


ここにきて、こんなにもその弊害に悩まされてしまうとは。


まあ、でも、もうこれ以上考えても無駄なのだろう。


何かあほらしくなってきた。別に俺だしな。


ぽちっとな。


あぁ、送信してしまった。


「......」


と同時に、今度は彼女からなんて返ってくるのだろうと、急にドキドキとまたしてきてしまう何とも情けない弱男の俺。


何だろう。昔、クレーマーのヤクザのジジイ宅に行って、日本刀をおでこに突き付けられた時にぐらいに緊張してきたといっても過言ではないかもしれない。


いや、それは過言すぎるか。もうあんな経験をすることは生涯にないだろう。てか、無ければ困る。


まあ、あの時は当時商品を、俺の元いた部署に降ろしていた高田さんが隣にもいて、アドレナリンがどばどばだったから何とかなった記憶があるけど、そもそもが普通のうるさいジジイだと思って謝罪、否、クレーム対応に行ったから、そのギャップにあの時の光景は今でも鮮明に覚えている...。


マジであの頃の俺、近くに女性がいれば、やる気だけは戦闘力5のゴミから53億ぐらいにまで上がる単純男だったからな...。


まあ、その単純さにつけこまれて、今日はその高田さんに保険の営業マンを連れてこられてしまったわけだが...。あれは色々な意味でショックだった。


そう。そういうこともあったから、彼女は俺に脈がもしかしたらなんて心の奥底でずっと考えてしまったりもしたのかもしれないが、所詮、そういう時に脈が生まれるのはイケメンに限るってやつなのだろう。それが今日実証された。


多分、あの時平静を装いながらも若干ちびってしまったことも高田さんには普通にバレていたんだな。そっとしておいてくれただけなのだろう。そう。あの時はしっかりと脂肪も身体に貯えてたし、汗と勘違いしてもらえているかもと思っていたが、無理があったか。まあ、ちびりデブに脈は絶対に生まれないわな。しかも相手が高スペック女性なら尚更だ。


まあ、そんな昔のことも今はどうでもよすぎることだし、むしろ、彼女が覚えてくれていないなら、その方が俺としては結果としてありがたい。


「.....」


そして話は戻るがおそらく、今しがたlineを送った彼女。からも、そうすぐには俺に返事は返ってこないだろう。


昨日もそうだった。


そう言えば、脈あり本に書いてあったな。脈あり女性は相手のlineにすぐに返事を返すって...。


じゃあ、俺やっぱり脈。普通にない気が...。


って、あれ?


『すみません。ご提案はものすごく嬉しかったのですが』


早っ。そんなことを考えていると、そのさんからもうlineの返事...

でも、そうか。まあ、何だかんだでだわな。


束の間の幸せなドキドキをありがとうございました。


『今週の土曜日のお昼などはどうですか?ランチの方がリーズナブルで美味しいみたいなんです』


って、ん?


土曜日...? 昼? 今週?

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