第10話 モテない男は色々と予想外の出来事におそわれる
いや、マジかよ。おい。
嘘だろ...。
俺は今、仕事の昼休みに普段は入らないような喫茶店でとある人間と話をしている。いや、一方的に話をされている。
「.....」
ちなみに、この場には高田さんはいない。
「絶対に今後の人生を考えるとこの保険にも入っておいた方がいいんですよ!わかりますよね」
いやマジで俺...
高田さんから保険屋紹介されてるじゃねぇか...。
正直、めちゃくちゃ冗談でそう思っていたんだけど。
いや、マジじゃん...。
ちょっと呆気にとられすぎて元からない語彙力がもう限りなく0だわ。
しかも、目の前にいるのは女性ではなく男。
それもいかにも体育会系なむさくるしい野郎が座っている最悪な状況...。
「あなたのことですよ!もっと真剣に考えましょうよ!」
高田さん...。
せめて、せめてこの場に一緒にいてくれよ。
何か、高田さんから「本当によくしていただいている大学の頃の先輩の、弟が保険屋に転職したので話だけでも聞いてあげていただけませんか。どうしても彼女からのお願いは断りきれなくて。本当に聞くだけでいいので、本当に入らなくていいですから。絶対に私からお礼は後でしますから。絶対に」とか言われて、まあ軽い気持ちで来てしまったけど...。
本当に恥ずかしい。
あの高田さん相手に、そんなことは絶対にないだろうとはわかってはいる上で、もしかして...と、お昼前に考えてしまっていた自分の愚かさが痛いほどに今の自分に突き刺さる。
そう。高田さんともしかしてなんてあるはずがないのに、あのボディタッチや距離感の近さ、俺との昔の会話を覚えてくれていること、それに昔は結構一緒に仕事もして色々あったから、それらがビジネス対応だとは理解しつつも、もしかして俺に脈が...
なんて一瞬でも脳裏に浮かべてしまったあの時の自分をぶち殺したい。
あるわけないだろ。糞バカかよ、俺。
「で、どうですか。進藤さん、今僕たちが巡り合えたのは奇跡です。どちらのプランに加入いたしましょう」
そう。結局、俺みたいな弱男はこうやって美女に都合よく利用されるだけなんだから...。
そして、もちろん加入なんてするつもりはない。
このゴリには何を言っても話が通じないことがわかったからだんまりを決め込んでいるだけだ。
もうあと15分ほどで昼休みも終わるからそれを口実に切り上げよう。
本来の俺であれば人が話している時にこんなことは絶対にしないが、今回は別だ。スマホを弄って時間を潰そう。
向こうが折れて帰ってくれれば儲けものだ。まあ、折れそうにないけど。
「.....」
って、もう話が終わったとでも思ったのだろうか。
高田さんからポケットの方に入っていた俺の社用携帯に電話がかかってきている様子。
いや、一生出ねぇよ...。もう今は仕事でも直接関係はねぇし。
俺はそこまでバカじゃない。もう高田さんは嫌いだ。
いい人だと思っていたのに、都合よく使いやがって。
って、今度は俺のスマホの方にも誰かからline...
「え?」
『進藤さん。お疲れ様です。連絡が遅くなってしまい本当に申し訳ございません。私、この居酒屋に興味があります』
え? その文言とともに、グルメサイトのとある居酒屋のリンクがそのlineメッセージは貼られている。
そして、そのメッセージの送り主はあの高崎さん。
高田さんではなく、高崎さんだ。
いや、もう連絡は俺には返ってこないと思っていたこともそうだし...
もし返ってきたらば、欲しいモノを言ってきてくれるのだとばかり思っていたのだが...これ。
えーっと、つまり...。
「進藤さん!何でさっきから黙っているんですか!僕も本気なんですよ!だから進藤さんも本気で、真剣に未来を考えましょうよ!」
いや、ちょっと落ち着け。俺。
別にすぐ返信をする必要はない。
ゆっくりとまずはこのメッセージの意味を、勘違いしないように理解しよう。
そう。真剣に。
まずは文脈をもう一度読み込んで...。
でも、やっぱりこの書き方だと普通なら...俺も
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