第7話 モテない男の風呂上がり

 おお、来てるし...。

 

 風呂を上がって、時間を確認しようと、洗濯機の上に置いていたスマホを見ると、ある人からのlineのメッセージがスマホに来ていたことに俺は気づく。


 まさかのさんだ...。


 と言っても、ただの『今日は自宅まで送っていただきありがとうございました!』と、あらためてのさっきのお礼のメッセージと、可愛い動物のスタンプが一つ来ているだけだ。


 もちろん、ただの社交辞令メッセージであることはわかっているが、彼女からは今日のヘマで完全に距離を置かれて、こういうのももう来ないと思っていたから、少し頬が緩くなってしまう30歳。彼女いない歴=年齢の

 

 そう。わかりきっていることではあるが、俺は色々と末期のこじらせた男だ。


 ただ、さすがにここで暴走するような俺ではない。

 

 すぐに俺は、『全然大丈夫です。こちらこそ楽しかったです』というメッセージとともにクマのキャラクターのお辞儀スタンプを一つ彼女に返信する。

 

 まあ、おそらく、これが最初で最後の彼女とのlineのやりとりになるのだろう。


 そんなことを考えながら俺はスマホを再び、洗濯機の上に置いて、鏡で自分の身体をチェック。


 別に俺はナルシストなどではもちろんない、筋トレの成果が最近は顕著に現れてきたこともあり、鏡で自分の身体の成長を見るのが楽しいのだ。


 自分的にはこれはもう細マッチョとは言ってもいいのではないかと思ったりもしている。最近は特に胸筋がはっきりしてきた気がする。


 って、この音は...。


 まじか...。


 そう。スマホには、またlineに誰かからメッセージが来たことを知らせる着信音。


 そして、鏡ではなく、おそろおそるまたスマホをのぞき込む俺。


 もしかして...


 『出前キャンペーン実施中 今なら送料無料』


 まあ...そうだわな。


 「.....」

 

 企業の公式アカウントからのメッセージ。当たり前だ。

 

 一瞬、期待をしてしまった自分が恥ずかしくてしかたがない。本当におめでたすぎる頭だ。


 本当に恥ずかしい。


 『いえ、こちらこそ楽しかったです!ところですみません。私、進藤さんの車の足元に折り畳み傘を忘れていませんでしたか?』


 え? 来た!?

 今、まさにタイムリーで彼女からのline...って、傘?


 『気づかなくてすみません。ちょっと確認してきます』


 そうか。彼女の家に着いたころにはもう雨も上がっていたからな。気づかなかった。


 確かに今思えば、車に乗る時に彼女は小さな傘を持っていた気もする。

 

 本当に、こういうところだよな。


 俺がモテないところは...。


 スマートな男なら、その場で傘を車に忘れてないか声かけをしたり、ちゃんと気づいてあげられるものな。


 とりあえず軽く服を着て車を見に行くか。


 そして、彼女が言っているんだ。おそらく実際に傘は俺の車にあるのだろう。


 そうか。傘を忘れてしまったがゆえの、俺へのあらためてのlineだったんだな。


 ひとり虚しく納得した。


 まあ、明日の朝にでも会社で返そう...。


 いや、明日は祝日か。明後日に返そう。

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