第4話 モテない男は独り虚しく悶絶する
それにしても、今日の高崎さんとの電車での会話。楽しかった...。
自分でもわかってはいる。いくら美女が相手だとは言えだ。
あんなに何のあたり触りもない様な会話で、興奮してアドレナリンが放出されている、思春期の中学生以下の気持ちの悪い30歳はこの世界では唯一俺ぐらいだと。
実に情けない...。
そして、いつもの様に、俺は就寝前の日課。ベッドの中でサブスクのビジネス書をスマホ片手についさっきまで読んでいたはずだったのだが、いつの間にかまた女性の脈ありサインなる本を読んでしまっている自分が布団の中にはいた。
本当に情けないと思う。昔はこんな本、読む奴なんていないだろうと思ってバカにしていたはずなのに。まさか30にもなって...
えーっと
『女性は好意のある男性に対してしっかりと目を見て話します』
『女性は興味のある男性に対しては共通点のある話題を積極的にくりだします』
『女性は興味のある男性との会話を次に会った時にも覚えていて話題にします』
お、おお...全部。当てはまる。
なんて、バカなことを考える俺ではさすがにない。
だって、彼女。高崎さんは誰に対してもそうだから。
そこを勘違いして突撃して玉砕した同士達を俺がどれだけ見てきたか。
なんて、理解しながらも一応、今日の彼女の反応が、脈ありサインに当てはまっていた事実に対してはさらに興奮してきてしまっている愚かな自分もいたりもするが、俺は30歳まで汚れなく高貴に生きてきた魔法使い。
すぐさま心に防御障壁を展開。
「.....」
危なかった。
次は...
『女性は自信のある男性に魅力を感じます。ネガティブな会話はNGです』
『女性は自分の話を親身に聞いてくれる男性に魅力を感じます。自分のことを笑わせようとべらべらと話してくる男の話なんて正直ほとんど聞いていません』
はい。終わり。
いや、元から終わっているけど、完全に終了。
今日はまだマシだったのかもしれないが、先週とか会話に困って俺、思いっきり彼女にネガティブすぎる自虐ネタに走りまくってしまったからな...。
確か、あの時はちょうど前の電車が発車した後に駅についてホームの椅子に座っているところで偶然彼女と一緒になって...
ああ、思い出したくもない。
あの時の俺、何してんだよ。マジで。
そう。どうしてそういう流れになったかはよく覚えていないが、確か俺は何をとち狂ったのか、自分がいかにこれまでの人生でモテてこなかったかを彼女に熱くエピソードも交えてべらべらと語っていた。
高崎さんがその自虐にかなり笑ってくれて満足していた気になっていたけど、違う。あれ、笑ってくれたんじゃない。今思えばただの失笑...。
そう。俺ではなく完全に彼女が聞き役になっていて、かつ、しょうものない話をしょうものない男がべらべらと...。
まさにNGの連鎖。
舌の肥えた美食家に対して、この牛肉はA5ランクの最高級国産牛肉です。予約が殺到しており希少の一品です。興味ありませんかって営業するならまだしも...
この牛肉は5年前に賞味期限が過ぎた元々質の悪かった最悪のゴミです。どうですか。なんて営業するバカがどこにいる...。
いや、違うな。そもそも俺は加工される前に殺処分された鳥か。
って、さっきから何だこの例えは。
夜だから元々おかしい頭がさらに色々とおかしくなっているのか?
まあ、よくよく考えれば、いやよくよく考えなくても、そもそも彼女とはその可能性なんて皆無なんだから落ち込む必要性も糞もないのだが...
そう。今はもうそっちじゃない。
あの時のしょうもない自分のエピソードをノリノリで彼女に話していた自分の黒歴史に対して悶えに悶えている。
気持ち悪ぃ。絶対に俺、高崎さんに裏で悪口言われているだろ。これ。痛い。痛すぎる。
昔、好きな子が自分に対して手を振っていると思って満面の笑みで振り替えしたら、実は俺ではなく後ろにいた奴に振っていた時ぐらいに恥ずかしい。
恥ずかしすぎる。
俺、本当にこれで30歳なのか?
違うよな。違っていてくれ。
とはいえ、やはり冷静になってみればどうでもいいことか...。
そもそも、あらためて思うけど、こんな毎日、中にも外にも頭下げまくっている男に魅力なんてあるはずもない。
それは隣の部署の彼女からもよく見えている光景だろう。
あれか。あれだな。
彼女からすれば、毎日同じ場所にいる段ボール箱に入った捨て犬に、こっそり餌をあげている感覚。そういう感じだ。
まあ、ちょっとそれは卑屈すぎるか。
とりあえず、お花畑になりかけていた頭は良くも悪くもいい感じに冷めた。
寝よう。
そして、明日は彼女とは顔を合わせませんように...
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