第2話 モテない男とモテすぎる女性
「今日も俺のせいで、ご迷惑をおかけしやした」
「いや、いいよ。ただ、お前が女だったら、どれだけよかったか...」
本当に。
どうせ後輩のミスのケツを拭いて上からも外からも詰められるのであれば、こいつではなく、せめて女性のケツをカッコよく拭いて自己満足に浸りたいというもの。
まあ、こんな感じで、みみっちいことばかりを考えているから俺は、いつまで経ってもモテないのだろう。知っている。
そんなことを考えながら、俺は同じ部署の後輩である男、中野と会社近くの安い定食屋で昼飯中だ。
「ハハハ、そう気を落とさないでくださいよ。ほら、これエビフライ。あげますよ」
「いや、そもそもそれ。俺の奢りだよな...」
「わかりました。じゃあ、女を紹介してあげますよ」
「いや、それはいい。別に求めてない」
「フッ、求めてない人が女性の脈ありサインなんて本読みますかねー。てか、マジであんな本読む人って存在するんですねー」
いや、実際にここに存在しているからその鼻で笑ってくる感じ止めろ。
そしてとりあえず、ニヤニヤとしながら、俺のことをほくそ笑んでくるその顔面を殴らせろ。
「ほら、あそこの高崎ちゃんとかどうですか?あいかわらず可愛いですよね」
「おい...それは偏差値30の高校にいる奴がノー勉で東大を受験するようなもんだってわかって言ってんのか?」
「ハハ、受験はどんなバカでも受験料さえ払えばできますよ」
「殺すぞ...」
とりあえず、あいかわらず目の前に座っている男は、俺のことをバカにできてめちゃくちゃ楽しそうに笑っているが、まあ、実際問題。あの高崎さんはないし、無理。
一応、業務の関係上、色々とやりとりすることも昔から多かったから面識はあるが俺とは人としての格が違いすぎる。
そう。彼女は美人で可愛くて愛嬌がありノリがよく、誰にでも優しい。まさに完璧な女性。
歳はおそらく2、3歳は歳下ではあるがまさに高嶺の華。
今も視界の少し奥のテーブルにいるお洒落なナチュラルボブの髪型をしたモデルの様なスレンダーな女性が彼女だ。彼女達も俺達と同様、同僚と楽しそうにランチを楽しんでいるようだが、あの控えめに口に手をあてながらの満面の笑顔、まさに癒しが過ぎる光景だ。
実際、イケている側だけではなく、俺みたいなモテない側の同僚も、彼女からあの笑顔を向けられたり、優しくされたりして好意を抱いてしまうものも多数いたが、まあ見事に撃沈していた。当たり前だ。彼女のあの愛嬌は標準仕様で誰にでも向けられるもの。
それを自分に好意を向けられていると勘違いしてしまうブ男は最早、救いがない愚者でしかない。
「マジで高崎ちゃん、お嫁さんにしたいっすよー。可愛すぎます」
「頑張ればいいじゃん。お前、今フリーだし結構彼女と仲良かっただろ?」
「いや、聞いてくださいよ。この前めちゃくちゃいい雰囲気になって自然な感じでご飯誘ったんですよ」
「おう、で?」
「ぜひ、また皆で行きましょう。って断られちゃいました。これは脈なしですかね」
「それは...俺でもわかるが脈なしだな」
これに関しては本に全く同じパターンが書いてあったが、脈なしだ。
こいつ、顔は確かにイケメンとは言えないが、いい意味でも悪い意味でもグイグイしててノリも悪くない。だから女性からは結構モテるタイプだと思ってはいたが、そうか。こいつでも無理なのか。
一応、噂通りだな。
高崎さんはノリがいいからバーベキューとか複数人での遊びであれば普通に参加してくれるみたいだが、二人きりで誰かとご飯に行ったみたいな話はまだ聞いたことがない。と言うかしつこく迫るとぶった切られるみたいな噂もある。それはもう心が折れるレベルで。
そして、そんな奴に対しては、そんなつもりはなかったのにと一気によそよそしくなるとかならないとか。
まあ、彼女ほどの女性だ。理想が高いのかもしれない。
「って、何だよ。その顔」
「いや、なんか、進藤さんに脈なしとか言われたら腹が立ってきました」
「いや、俺はお前にさっきからずっと腹が立ってるのだが...」
それにしてもだ。
座っているこのテーブルの位置的にもさっきから彼女のことがチラチラと視界には入ってくるのだが、やっぱり彼女は男女問わず誰とでも距離感が近い。それに喋る時には絶対にこれでもかと相手の目をあの大きな目でじっーと見ながら話している。あと、リアクションもすごいくいい。
これが彼女の自然であり無自覚であろうところが尚更、達がわるい。
まさに天使の皮を被った小悪魔といったところか。それも天然で悪気のない。
だから、実際は彼女の愛嬌のよさに勘違いをして屍になって散っていった奴らのことを少しは同情する余地もあるのかもしれない。
まあ、今年30を迎えてウィザードになった俺の敵ではないが...。
きっと昔からモテ続けてきたんだろうな...
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