モテなさすぎて『女性の脈ありサイン』なる恋愛啓発本を手に取ってしまった卑屈な30歳独身男、地味に今日も美女から話しかけられている。
高たんぱくプロテイン君
第1話 モテない男と「女性の脈ありサイン」
女性の脈ありサイン...か。
本当に、せっかくの休日に俺は一体何をしているのだろうか。
30歳独身。彼女いない歴=年齢の俺
進藤 力也は、華の土曜日という休日、真昼間から独り自宅マンションのベッドの上にいる。
ちょうどスマホを片手に、とある電子書籍を静かに読んでいるところだ。
『lineで女性から、休日に二人きりで遊園地等の遊びに誘われたら脈ありです』
そんな言葉が、今読んでいる本にはもっともらしく書かれているのだが、やはりこの本はモテない男の頭を舐めていると思わざるを得ない。
女性から休日に二人きりの遊びに誘われれば脈ありなんて、言われずともあまりにも当たり前すぎることだろうと感じてしまうのは自分だけなのだろうか。いや、違うはずだ。
まず、こんなバカみたいな本を読んでいる年季の入ったモテない男が求めている情報は、身近にそんな女性がいることを前提にしたものでは絶対にない。
そう、そもそもの話。
自分で言っていて至極恥ずかしくはなるのだが、女性から俺にプライベートなlineが来たことなんて、何の自慢にもならないが一度もない。
さらに言えばだ。友達登録者リストに仕事関係以外では女性の名前がない。
要は...全くもってこの本は参考にならないし、実用性がない。
所詮、ありきたりな情報商材の廉価版。
だが、全く問題はない。
休日に何もせずにベッドでダラダラとこんな本を読んでいる30歳の男に今後、脈ありな女性が現れることなんてまずないのだから。
「......」
ただ...自分でも思ってしまうが、本当に俺は心底つまらない人間になってしまったと感じる。
休日は朝早くに起床。
その後は日課となった健康対策などの軽い筋トレをして、コンビニで朝昼兼用の飯を買う。後は一日中、自宅に籠ってサブスクでドラマやバラエティなどの動画鑑賞だ。
これが毎週繰り返されるのだから色々な意味で終わっている。
しかも、最近の楽しみは鏡でそれなりに割れてきた胸筋と胸筋を眺めること。
正直、とある挫折を経験したことから始めた、この毎日の軽い筋トレとウォーキングで2年で体重が20キロ落ちたことには自分でも驚いてはいるが、所詮は今後の人生で誰かに見せる機会もない身体だ。
あくまで虚しい自己満足の範囲内であり、実際に痩せたことによる周りの女性からの反応があったかと言われると特にはない。
そう。誰も俺になんて興味はない。
えーっと、次は
『ボディタッチをしてくる女性は脈ありです』
はぁ...さっきからスマホのページをめくる度に口からため息が出てくる自分がいる。
ボディタッチなんてそもそもイケメン以外は女性からされることなんてないから。
思い返せば昨日だってそうだ。
たまたま仕事帰りの電車で、運よく職場でも人気の可愛い後輩の女性と一緒になったのだが、会話の途中でまさかのボディタッチをされかけたかと思えば、「あっ」という感じで露骨にその手を強制キャンセルされる場面があった。
それはそうだ。わかっている。
要するにやべっ、こんなモテそうにない奴にボディタッチをしたら勘違いされて私のストーカーみたいな存在になるかもしれない。的な意味での強制キャンセルだろ。
別にいい。
俺としては合法的に女性とつかの間の会話を楽しめたのだから。それ以上は望んでいないし、望むつもりもない。
とにもかくにもだ。
別に俺は彼女が欲しいとか結婚願望があるとかそういうわけではない。
いや、厳密にいえばそういう時期も一瞬あったが、色々とあって30歳としてはかなり終わっている、いや終わりすぎている、俺と言う男が形成されたいうこところ。
って、もうこんな時間か。
予約していた美容院に向かわなければならない。
そう。ブ男仲間に紹介してもらったスタイリストがブ男のブ男御用達の美容院に。
イケメンがスタイリストの美容院なんて聖域、俺にはどう考えても無理だからな。
本当、いいところを紹介してもらった。
では、向かうとするか...。
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