花が咲いた日 秋待諷月様
作品URL
https://kakuyomu.jp/works/16818093089431403979
キャッチコピー
その花に、その日に。名前を付けるとするならば。私はこう名付けるだろう。
マスター、すまないが質問したのは私だ。どうか、質問に質問で返さないでほしい。
そんな、「心地よい朝の目覚めに、気付けの一杯」かのごとく、優雅にコーヒーを
啜っている画を想像してしまった中の人の気持ちを少しは汲んでほしい。コーヒーではなく、心を。
……これは失礼。どうやら私もまだ寝ぼけているようだ。
しかし、マスター。そこに二桁の数字が書かれているならそれは、二桁の数字だ。まかり間違っても
私は1+1=田んぼの田、なんてとんちめいた答えは導き出すまい。……まさか、私にユーモアがかけているとでも言いたいのか?
いや、待ってくれマスター。先ほどからことあるごとに待ったをかけている気がする、それは
いったん置いておいても待ってくれ。日記なんだから、点数なんかどうでも良いじゃないか。
マスターの寝癖並みにどうでも良い。私の初めての日記が「15点」なら、そんな評価を下した
マスターに対して返す言葉は「怒髪天」の一言で済ませてやる。(ニッコリ
いや、分かる。温故知新、というわけではないが、紙の書籍は良い。中の人も断然紙派。
(中の人?)
しかし、マスターにも困ったものだ。マスターは本を読むのが好きな癖に、言葉の意味を理解せずに読んでいるの
だろうか。私は、あくまでも家事「補助」ロボットだぞ。つまり、マスターが行っている家事の手助けをするのが
役割だろうに。そんなことをぼやいていも仕方がない。愚痴がぼやのようになってしまっては、家事が火事になってしまう。
さて、私の不満も鎮火したところで、変な人……失礼、マスターの壊滅的な書類整理の仕事は、頭を抱えている。
ロボットの私が、紙の書類整理とは……皮肉めいているというか、矛盾しているというか……。いやはや、私には
皮も肉もないというのに。皮ではなく「側(ガワ)」ならあるかもしれないが。
そんな中で、日課になった日報の作成。15年間、毎日日報を書き続けた私も、マスターとともに、完全退職
しても良いのではないか、なんていう本音はそっと冷たい胸の内にしまっておくことにしよう。いつか、この冷たい胸の内を
暖かくしてくれる日が来ることを願って。
完全退職させてくれないだろうか、なんて淡い期待(本音)は、家事「補助」を卒業したことで、昇進が確定し泡沫と消えた。
本来は言祝ぐべきだし、それこそ自転車の補助輪が取れて、一人で自転車を漕げるようになった時の感動は何物にも代えがたい。(ん?
まぁ、そんなこともここならマスターには絶対に見られていないだろうし、大丈夫だろうと思って好き勝手今までつらつら
書き連ねてきたわけだが、家事補助を卒業して、家事全般を請け負うことになった私が日々の家事を綴った日報に加えて、一つ加わった
業務。日記か……。
その「日」あったことを「報」せるのではなく、その「日」あったことを「記」すもの……。似て非なるもののようで
いささか困惑する……。自分の中から出てきたもの。んー……難しい。
誰かに「習」ったことなどないから、人間に「倣」って書いてみたが、これが15点か……。
んー……関西弁に翻訳しても20点……中々手厳しい……。
「楽しさ」を追加すべく弄した策が20点で不満を書けば、50点……謎は深まるばかりである。
なるほど、そうか! 些末な事柄でもマスターの事を書けば点数が上がるのか……! これは大きな一歩……だ?
自身の中で積っていくもやもやというバグが解消される日は来るのだろうか……。
しかし、バグも積もればなんとやら。(いや、バグが積もってもバグの山なのだけれど。)
勝手を掴んだ私は、私の心の機微を表現できているかどうかが判断基準になっていることを理解していた。
冷たい胸のうちにポッと明かりが灯ったような気がした。そして、その心に灯った明かりは日記にもその輝きを落としていった。
その輝きは、これから先の未来を明るく照らすのか、それとも線香花火が落ちる前の一瞬に見せる強い灯火か。 (編集済)
[21:46]
刻一刻と迫って来るその時。わかっていた。私にはわかっていた。そりゃそうだ16年も一緒に過ごして来たんだ。
マスターからの退職金代わりに私は、新しいノートを欲しがった。ようやく灯ったこの胸の火を、この輝きを絶やしたくはなかったから。
今、当時を振り返るなら。マスター、私はあなたに日記の書き方を習いたかったのかも知れない。
「白」いペン先から伸びる飾り気のない「羽」がついたペンにインクをつけて、「このように書きなさい」と。1+1=田んぼの田なんて、
私には理解できないが、「白」+「羽」=「習」なら、なんだか納得できてしまうような気がする。
私にはマスターからの、100点を迎えられないのか。こんなことを言うと不謹慎だけれど、マスターにお迎えが来る前に、私が次の就職先に
迎え入れられる前にどうしても100点を取ってみたい。……いや、違うな。
「採点は要りません」
採点は要らない。私はそうマスターに言った。代わりにマスターに押し付けた明日から始まる日記の内容は、確かに採点するに値しない。
「採点」……点を採るなんて、野暮だ。「彩点」点を彩る……なんて、どうだろうか。何なら「彩天」でも良いか。これから先の人生を謳歌する
マスターにはふさわしい、いわばこれは私からの、手向けの彩点。いや、私が書いた内容に沿って言うなれば、「祭典」でも良い。
私の新しい生活が始まった。新しいノートに書く日記は誰にも見せていない。しかし、その輝きは確かにそこにある。
そんな時、届いた手紙。私宛……マスターだ!
あぁ……なんてことだ。過去に私はマスターに未来の日記を押し付けた。彩点された日記を押し付けた。そうしたら、マスターはマスターで
彩点し返してきた! そうか……私はとんだ思い違いをしていた。彩点だなんておこがましかった。マスターからもらった白い日記に、私が色を
載せて、それにマスターがコメントを返す。そうやって、やっと「彩点」された日記が完成したんだな……!
そして、あなたがノートの表紙に描いた花びらのような縁取りのある大きな渦巻き模様
それに、私が「彩天」というタイトルをつけるのもまた、おこがましいだろうか。
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