世界の終わりとペンギンたち 筒井透子様

作品URL

https://kakuyomu.jp/works/16818093072980239402



キャッチコピー

終末を回避する週末を。これは切なる願いであり、実を結ぶ奇跡をこの手に。



テレビを入れて、世界の終わりまでの日数をお知らせするニュースキャスター。それを能天気と捉えるリコ。1か月も前から、一日も欠かさずそれこそ時報のようにお知らせしていたら、そりゃ能天気というか……最初から笑顔なのも、病んでいるように見えるのも、能天気なのではなく、それを毎日全国に向けて発信し続けなければいけないという心労によって、心が壊れてしまったと捉える方がむしろ自然といえるのではないでしょうか。

 灼熱の暑さの中、空を見上げても青ではなく赤が映って。その赤をカメラで撮ろうものなら、太陽を見るがごとく焼かれてしまいそうですね……。

 ルームシェアが始まってわずか十日ほどにしては、それを感じさせないほどに打ち解けているリコと僕。思わず溶けてしまいそうになるほどの世界で、人と人との仲くらいはすぐさま打ち解けたい(溶けたい)ものです。そんな僕が会いたい人。

 骨折したことを羨ましがられる……というよりは、看護師に介抱してもらえることを羨ましがられるのはまぁ、分かるとしても。それでもその代償が骨折とあっては、あまりにも不釣り合いな感が否めませんね……。

 誰だって最初は慣れないものです。最初から上手く包帯を巻けるわけじゃないし、それに対して、上手い返しをした僕には思わず舌を巻きました。……これも上手く巻けているでしょうか。

 会う理由が患者と看護師の関係でなくなったのは、まるで一旦切れた糸が結び目の分だけ太く強くなるような、そんな感覚をイメージしました。包帯のように白いその糸は一旦途切れて、赤い糸になって結び直されたような、そんなイメージ。

 会えない時間を埋めるのはスマートフォン越しのキャッチボール。赤いLINEでつながっているのかと想像すると、思わず笑みがこぼれてしまいます。

 そんな矢先。まるで矢でも降ってきたかのような急転直下。降ってきたのは矢ではなく隕石でしたが、その絶望感たるや……。あまり対比したくはないですが、空の赤と赤い糸。どうか切れませんようにと、この恋が実を結びますようにと、文字通り切実に願っておりました。

 たった一つの出来事で環境ががらりと音を立てて崩れ、それでも何かを作り上げるというのは、波にさらわれてしまった砂の城を一から作り直す作業かのようで。そこに楽しみを見いだせれば、より立派な城が作れるのだと思います。

 別れは突然に。同僚との打ち上げで盛り上がるのもあと少し。なのに、先に自分で空に上がってどうする……せめて、仲間で盛り上がった思い出も一緒に空に持って上がれていれば良いのですが。

 真実は小説より奇なりとは言いますが、隕石が落ちてくる というのは紛れもない「事実」で。タイムリミットは酷にも刻一刻と迫っていて。建部の伝えたかった言葉。その切り出した話の内容はあまりにも突拍子で。幕間に表紙が挟まれたかのような感覚に陥りました。そして、この表紙の次のページから紡がれる物語がまた……最高です。

 そりゃいきなり押しかけられて「パラレルワールドや!」みたいに当然のように言われれば、「ん? パラソルワールド? 雨なんて降ってないけれど」なんて、降ってもいない雨(事情)を飲み込むなんてことはできないわけで。

 暁人が死んでしまった世界から飛び出して、僕(暁人)を連れ戻しに来た、リコ。強固な運命は、並行世界をもたやすく超えていくのですね。愛の力、無限大。それこそ、無限大に枝分かれした世界から、独身である僕(暁人)を探し出すのもどれだけの苦労があったことか。不確定なルールにも縛られた上での宇宙旅行。旅行といえるほど、お手軽なものではないのですが。

 そして、ここに来て冒頭のリコに調べて欲しいことというのがようやくつながりました。おそらくそういうことなのかなと思いながらこの先は読み進めておりました。 

 あと一年、あと七日と言われたら。確かに、未来のことを深く考えるほどの余裕も事実上の時間もとても浅くて。新しい物への興味がなくなる……極端に言えば『停滞』。確かにそういう意味では死んでいると形容できなくもないですが……ちゃんと生きてる。まだ、ちゃんと生きてますよ……温泉行くんでしょ! と心の中でエールを送り続けていました。

 『生』と『死』の定義。今でも覚えてくれている誰かがいる。それだけで少なくとも、その人の心の中には生きていられる。それすらも風化して、風にさらわれてしまったときは、すなわち本当の死を迎えるわけで。リコは死んだ暁人を僕(暁人)の心の中で生きながらえせさせながら。僕(暁人)はこの世界で死を選んだ彼女をリコの心の中で生きながらえさせながら。お互いがお互いにボタンを掛け違ったまま……否、お互いにかけるボタンの色を間違えたまま、皮肉もぴったりとかけられるボタンに思いを馳せながら。

 それでも。スマホを持って行けたのは、目に見えない赤いLINEで確かに繋がれていたという何よりの証拠であり、まさに『拠』り所の『証』明。

 人と人との出会いなんて、奇跡であり、軌跡。どんな放物線も描けば、誰かと交わる。それが、3日後なのか1年後なのか。それは誰にも分からない。

 例えば花屋で出会った従業員が、分厚いアルミを巻いていたとして。かつての世界で白く分厚い包帯を巻いてもらったように。白と銀が交われば白銀に。銀色に輝く、奇跡のような軌跡で以て、顕現するように。きっとそれは、いぶし銀といわれるほどくすんでも。きらきらと輝く宝石のように、いつまでも綺麗な思い出として永久保存されるべきなのだと深く感じ入りました。

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