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テネブラファミリーの地下一階駐車場
「ほらコタロー君、車に乗って」
「…うん」
私はコタロー君を車の後部座席に座らせ、私も続けて後部座席に座り、ファミリーの部下の1人である運転手に声をかけて、車を走らせる。
「…」
「…」
コタロー君は何も言う事も無く、解れを直すも充電切れで動かない熊さんを普通のぬいぐるみの様に抱きしめながら、高く聳え建つテネブラファミリーのアジトを眺めていた。無理矢理連れて来られたとはいえ一週間以上も過ごした場所から離れるからなのか、その横顔はちょっと寂しそうに見えた。
「(あと1時間位したらお別れ…か)」
「紅菊お姉さん?」
「!っ、何ですかコタロー君?」
「紅菊お姉さん、何か寂しそうな顔してるから…お姉さんどうしたの?」
「え?」
それは貴方でしょう、と言いかけた所で自分もコタロー君との別れに感傷に浸っている事に気付く。
「何故…でしょうね?」
不意に下腹部がズキリと痛んだ気がして、私は思わず痛む箇所を撫でた…一体何故?
×××
「ふ〜ん、ひのした家には菊美さんと光太郎君の母子のDNA以外は検出されず、菊美さんが亡くなった後の保護者の存在は検出されなかった訳なんだー」
僕は昨晩に届けられた、ひのした家の調査報告を見ながら、車庫に向かう。
「(んーしかし鷹さんと鷲さんに髪の毛数本貰って、光太郎君との関係を証明する為にDNA検査したけどー。…流石一卵性児の三つ子、事実は小説より奇なりって本当なんだねー、実に奇想天外な結果が出ちゃったよー)」
そこに書かれている検査結果に僕は面白い人達と知り合えて良かったなぁ、と微笑みながら書類を鞄に入れて車とバイクを見比べる。
僕は一般人である事を装いカルルス霊園に向かう為に、パトカーではなく自家用車に乗るつもり何だけど…車で行くかバイクに乗るかで迷ってしまう。僕としては小回り利くしスピードの出るバイクの方が好きだけど、帰りに子供を乗せるなら車の方が適性だ。しかし………。
「(あの管理人の様子から察するに、今日カルルス霊園に光太郎君が現れる可能性は予想外の事が起こらない限り、98%何だけどー。…あの光太郎君の家に押し入ったナイヤファミリーの連中の存在が、残り2%に関与して現れない可能性が高いんだよねー。仮に無事光太郎君が現れたとしても、何事も無く鷹さんの元に連れて帰れるかも怪しいなー)」
昨日ひのした家を荒らし、僕の部下を殉職させたナイヤファミリーの存在が脳裏に過ぎる、彼等は一度狙いを定めた相手にはしつこく付け狙うと裏社会では有名らしい。
「(暗殺現場を目撃した光太郎君と、彼等を返り討ちにした鷹さんと鷲さん。ナイヤファミリーが彼等を付け狙う可能性は十二分にあるから、光太郎君を引き取る事が出来てもナイヤファミリーを全員捕するまで、彼等には僕達警察の監視と保護が必要かもしれないなー…)」
「ケイ」
「!」
無事に見付けられた場合の算段を立てていると、後ろから愛称を呼ばれ振り返るとそこには僕の父が立っていた。
「おはようございまーす藍雨警視長」
「はっはっはっ、我が家ではお父さんと呼びなさいと言っておるだろう、ケイ?」
「そういうお父さんこそ、仕事場で僕の事ケイって愛称で呼ぶでしょー、駄目だよ公私混合させたらー」
「はっはっはっすまんすまん…しかしケイよ。私服で勤務とはまた一般人に扮して殺人現場を捜査をするつもりだろう?」
「いやー今回は殺人じゃなくて人探しだよー。あっ今日晩ご飯食べて帰るからお手伝いさんには僕の分はいらないって伝えておいてー」
「仕事熱心なのは感心するが、危険な事は部下に任せなさいといつも言っているだろ?ケイが得意なのは推理なのだから肉体労働は他の者に任せて、お前はお前の持ち場で得意分野を全力で発揮すれば良いんだ。何せお前は警察の宝なのだからな!」
「わかってまーす、僕も自分が非力なのは理解してるんで力仕事が必要な時は、部下を連れて行くよー」
「はっはっはっ、今抱えてる仕事も困った事があったら遠慮無く署から人手を借りなさい。逆に妨害しようとする者がいたら私に言いなさい、その時は私が直々にケイの力になるからな!」
「わー警視長の力を借りられるなんて心強いなー、それじゃあ父さん僕はそろそろ行くよー」
「いってらっしゃい」
僕は車に乗り込みエンジンをかけると、父は気をつけて行ってこいよと声をかけて家の中に戻って行く…何事も無く光太郎君を保護出来たら良いなぁ、と思いながら僕は車を走らせた。
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