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「(―――そうです、そもそも私は子供の泣き声は大っ嫌いで、泣き虫なコタロー君の面倒は少し煩わしいと思っていました。情なんか湧く訳無いじゃないですか…ここは喜ぶべき所であって、感傷に浸る所じゃないんです)」
私はコタロー君の部屋に向かいながら変な言い訳で自分に言い聞かせ、胸にある感情を必死にごまかす。…コタロー君が私の事お母さん何て呼び間違えるから、昔の事思い出した上に変な感情が湧いちゃったじゃないですか、全くもう。
「お帰りなさい熊さん!」
「へ?」
唐突に部屋からコタロー君の声が聞こえた、何事かと思い足早にコタロー君の部屋に向かい中を覗き込んだ。
『マ、マスター…頼まれた品を…命に変え…お持ち致しまし…ニャン』
「ごめんね熊さん、無理なお願いしちゃって…」
『そろそ…バッテリーが…切れますお休みなさ…ニャ』
「うん、ありがとう…お休み熊さん、寝ている間にボロボロになった所縫っといてあげるね」
「…何してるんですかコタロー君」
「あっナナシお姉さん!裁縫セット貸してくれる?」
振り返ったコタロー君の腕の中にはあちこち綻びが出来ておりボロボロになっていた。そういえば昨日から姿が見えなかった様な…
「コタロー君?熊さんどうしたんですか?たった1日でどーしたらそんなに汚れるというんですか?」
「えっえっとね…これからずっとここで暮らすから、せめてお守りを持ってきて欲しかったの」
「お守り?」
「うん、コレだよ」
そう言ってコタロー君は手に持っていた紺色の学生帽を私に見せる、その学生帽はあちこちに擦れた跡や土が付着しかなり汚れていた。
「この学生帽がお守り?」
「違うよ、学生帽に付けているバッチだよバッチ!」
改めて学生帽を見ると、確かに小さな茶色い羽のバッチが付いていた。
「何ですかこのバッチ」
「雀さんの羽バッチだよ!このバッチはね、お母さんが結婚した時にお父さんから貰ったバッチなんだって!それでお母さんが僕にくれた時は『お母さんの気持ちも込めたから、このバッチにはお父さんとお母さんの2人分のコタローを守りたいって気持ちが篭った、特別なバッチなのよ』って言ってたから、このバッチを握ってるとすっごく落ち着くんだぁ」
「…」
「昨日まではお守りがなくてお化け怖かったけど、お守りさえ握り締めてさえいれば夜1人でトイレにも行けるよ!」
「…その必要はありませんよ」
「え?」
私は伯父夫婦がコタロー君を探しており、私達はコタロー君をその伯父夫婦の元に帰す事を話した。
「―――と、言う訳で私達はコタロー君を伯父夫婦の元に返す事にしました、但し訓練校に通っていたコタロー君がマフィアのアジトにいた事が知られれば肩身狭い思いをするでしょうから、この消息を絶っていた一週間は病院で入院していたと、知らぬ存ぜぬを通して下さい、わかりましたか?」
「…」
「コタロー君?」
「あ、あはは、帰れるなら熊さんに無理してバッチ取りに行かせなくて良かったんだ…熊さんに悪い事しちゃった」
「…」
「えっと…僕何かに優しくしてくれてありがとう、今までお世話になりました」
コタロー君は何かをごまかす様に、私に向かって慣れない敬語でお礼を言いながら、頭を下げた。…本当にこれで良かったのだろうか?しかし今日でお別れする子の事を気にかけても無意味な事だ。
「(…ああ、そういえば何時にコタロー君とお別れするのか聞き忘れていました)コタロー君、ちょっと何時にここを出るのか聞いてきますので、熊さんの解れた部分でも縫って待っていて下さい」
「え?あ…うん」
私は箪笥の中から裁縫セットを取り出し、なるべくコタロー君の表情は見ない様に裁縫セットを渡して、部屋を後にした。
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