第14話 居場所
かごめ かごめ
籠の中の鳥は いついつ出やる?
夜明けの晩に 鶴と亀が滑った
後ろの正面だぁれ?
私は居場所が欲しかった。
私が産まれた地は東北地方で、家柄は華族の長女として産まれたが、父は跡取りの男児だけが必要であり女児はいらなかった。母は私を兄弟と分け隔て無く愛してくれたが、私が中学校を卒業する前に亡くなってしまった。
母の意思により私は家に住む事を許されていたが母亡き後、父は何も躊躇いもなく私を関東にある全寮制の女学院へと転入させ家から追い出した。遠い地から来た無愛想な私が、思春期の女子の輪に入れなかったのは言うまでも無いだろう。
その女学院で嫁いだ先で恥をかかぬ様にと家事全般を叩き込まれ、殿方の顔に泥を塗らぬ様に礼儀作法を身に付けさせられ、そして女の人生は子を産み家庭を守る為にあるのだと教わった。
父の態度からこの女学院を卒業して直ぐに、私は嫁に出されるだろう事は容易に想像出来ていた。私は顔も知らない男といつか私が腹を痛めて産み落とす子供の為に、産まれて来たのだと思いながら学生時代を過ごしていた。
無事女学院を卒業し数年ぶりに実家に帰宅した時、病弱だった兄は既に他界していたのだと知る。…葬儀に呼ばれなかった私は家族では無いのだと父に暗に言われた様で胸が締め付けられ、母の葬儀以来流していなかった涙を嗚咽を漏らしながら泣いた。
実家に帰宅して次の日には既に見合いの場が設けられており、私は泣き腫らした顔を化粧で隠し見合いの席に着いた。相手は良家の長男で物腰柔らかく…まぁ良い人?なのだろうか?
小学校以来男子と関わりを持たず、父以外の男を知らない私には判断が難しいが、一度も手を上げる事も無く、無理矢理押し倒そうともせず、愛してると何度も告げる男は良い人だったのだろう。
元から拒否権の無いその見合いで私はその男の所に嫁ぐ事になった。愛される事に慣れてない私は表情が凝り固まっており、男は何度も私に笑って欲しいと語りかけ、姑には可愛いげの無い嫁と呼ばれていた。
子供を産む為に存在するのだから男に抱かれる事に抵抗はなかった。最初は痛みを伴ったが何度も床を共にする内に慣れて行き、何時しか私のお腹で一つの命が芽吹いた。
産婦人科でその事実を知らされて、私は「ああやっと居場所を手に入れた」と安堵した。日に日に膨れるお腹を愛おしく感じ男からも優しい母親の顔付きになったと喜ばれた。
今までの人生の中で1番幸福に思えた日々だった。
…その幸福が流れ落ちた原因は何だったのだろうか?
男がいい人過ぎたからだろうか?その男に嫁いだ私が、全然幸せそうな顔をしていなかったからだろうか?それとも臨月を間近に控えていながら不用意に外を出歩き、階段に近付いた事だろうか?
私は転げ落ちた先の冷たい地面に寝そべりながら、私を見て醜く笑う女を見た。
×××
「お母さん?」
聞こえてきた声に沢庵を切っていた手を止め後ろを振り返る。そこには目を擦りながら寝ぼけ眼で私を見るコタロー君の姿があった。
「…おはようございますコタロー君」
「………!っ、あっお、おはよう紅菊お姉さん!」
「もう少しで朝食の準備が整いますから、その間に顔洗って着替えて来なさい」
「うん!わかった!」
私を母と間違えた事に気付いたコタロー君は、羞恥心から顔を真っ赤にさせながら洗面所に走って行く。
「…お母さん、か」
その後ろ姿を見届けてから私は切った沢庵を焼き鮭の横に添え、炊きたてご飯を装い滑子と豆腐の味噌汁をお椀に移し、朝食一式を乗せたお盆をコルヴォ様の部屋へと運んだ。
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