5

「…どういう意味ですか?」

「何がだ?」

「私や先代がセクハラされた時は特に怒らなかったのに、何でコタロー君がエムエムにセクハラされそうになってそんなに怒るんですか?」

「…子供は大人が守るべきだろ。それにあの子が1人でエムエムを相手に出来ると思うか?」

「それはそうですけど…」

「紅菊、こんなもんでどうだ?」

「やっぱり完全には落ちませんか、なら壁紙に合った塗料を塗るまで、そこのカレンダーで隠して下さい」

「わかった」

「…」


本当にコルヴォ様はコタロー君をどう思ってるんですかね?そう思いながら私はモップを濯ぐ手を止め、コルヴォ様がカレンダーをつける後ろ姿を眺めていると、廊下の方から足音が聞こえてくる。足音はコルヴォ様の部屋の前に止まると数回ノックした後に開かれた。


「失礼します、技術担当の紗藤幹部です。窓の修理に来ました」


入って来たのは紗藤幹部だった。彼は替えの窓を手に部屋に入室してきた。


「ご苦労」

「紗藤幹部、窓が終わったらそのカレンダーの下に隠れている、壁の血痕を塗り替えて下さい」

「了解しました。大量の硝子のシャワーが降ってきて下のガレージの天井が、硝子の針山で斬新アートになりましたが、貫通しちゃってるんで雨漏りしない様に部下に舗装する様に指示出しときました」

「仕事が早いですね」


紗藤幹部は私達に顔を向け話し掛けながら、手慣れた手つきでドライバーで窓枠のネジを外し壊れた窓を外してゆく。


「それはそうと新しい携帯が出るみたいですけど買い替えますか?今度は一回り小さくなってバッテリーが5時間もつそうですよ?」

「ただ電話するならそこらの公衆電話使えば良いじゃないですか。そもそもあんな重たいもの持ち歩いてまで、電話する意味あるんですか?」

「いやいや今度の携帯電話は親子電話の子機並の大きさらしいです。何でも鞄に入るのを目標にバッテリーの小型化を、重点的に研究を重ねたとか何だとか…」

「でもただ電話するだけにはちょっと値が張りますからねぇ…ボスと幹部全員に配るとなると相当な額になりますから、1台3万円代になったら考えます」

「う〜ん紅菊様が経理を担当する様になってから財布の紐が固くなりましたねぇ。はい窓の付け替え終了しました」


そう言われ窓の方を見ると新品同様の窓が張替えられていた。


「早いですね」

「本業はもっと複雑な機械を弄る事ですからね。ネジを回して新しい物に入れ替えるだけの作業、目を瞑ってでも出来ますよ…そういえばボス、左手の調子はどうです?」

「…特に問題無い」

「(左手?)」

「少しでも動作に問題があったら直ぐにメンテしますから言って下さい。それじゃあ俺は壁紙と同じ色の塗料を…?」


紗藤幹部は何かに気付いた様に廊下の方を見る。何事かと釣られ私も廊下に意識を向けると、廊下を走る軽い足音が聞こえてくる。


その足音は部屋の前まで来ると勢い良く扉が開かれた。部屋に入って来たのはコタロー君で彼は扉を閉めると、走って乱れた呼吸を整える為に肩を揺らし大きく深呼吸をした。


「コタロー君、どうしたんですか?」

「はぁ、はぁ、お皿洗い終わったから…お掃除手伝いに来たの」

「何故走って来たんですか?」

「廊下真っ暗でオバケが出そうだったから、会わない様に急いで来たの…!」


コタロー君は部屋にいる紗藤幹部の存在に気付き、慌てて私の所に駆け寄り後ろに隠れてしまった。


「ん?何ですかこの子?」

「えーっと…」


何て紹介しましょう、普通にテネブラファミリーに入団した新人マフィアって紹介すれば良いのかしらと悩んでいると、コタロー君を見ていた紗藤幹部が突然声を上げ、納得した表情をした。


「あーなるほど!この子が例の坊ちゃんですか?漸く引き取る決心がついたんですねーボス」

「え?」

「?」

「紗藤幹部、その話は…」

「いやー確かにマフィアに関与させない為とはいえ、一人暮らしはちょっと子供には酷な話だと思ってましたが…引き取った以上は大切に育てないといけませんね!」

「紗藤幹部、コタロー君の事知ってるんですか?」

「へ?紅菊様は知らないんですか?坊ちゃんはボスのー…むんぐ!」

「「!」」


突然コルヴォ様が後ろから両手で、紗藤幹部の口を塞ぐ。


「コルヴォ様?急にどうしたんですか?」

「そっその…これから紗藤幹部と大切な話がある。紅菊はこの子と一緒に掃除をしていてくれ」

「は、はぁ?」

「行くぞ、紗藤幹部」


コルヴォ様は普段の無表情が崩れ、心做しか焦っている様に鼻まで覆われ苦しそうに、顔面が真っ赤に染めた紗藤幹部を引きずる形で、部屋の外に連れ出してしまった………何だったんでしょうか一体?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る