3

「なぁに大事なのは心じゃよ、互いが思ってりゃあ容姿何ぞ問題無…い…」


応接室に入り2人を見れば兄に思いっ切り睨まれ、藍ちゃんは顔面蒼白でワシを凝視してきた。


「…とワシは思うの〜う?はい2人共お茶どうぞ」

「…」

「ど、どうも〜」


ワシは茶を置き2人の向かい側に管理人が座ったのを見て、ワシも自分の図体を考え管理人の隣に座る。必然的に2人と向かい合う形となったワシは兄に睨みつけられ、藍ちゃんに至ってはワシが顔を見ると、目ぇ逸らされた。…そんなに夫婦にされて嫌じゃったかのう?


「えーっと…ごほん!それで管理人さんに聞きたい事があるんですが甥く…いや光太郎君が、このカルルス霊園に来たかどうか聞かせて頂けるでしょうかー?」

「坊ちゃんですか…ええ、確かにこの霊園に来ておりました」

「「!?」」

「その時の様子を詳しくお聞かせ願いますでしょうかー?」

「ええ…それは一週間前の事でした」


私が管理小屋の玄関口を掃除していた時に、坊ちゃんが正門から霊園を訪れました。


坊ちゃんが私に気付くと挨拶して来たんですが…1年ぶりに見た彼は痩せっぽちで、しっかり食べてるか不安になって私は坊ちゃんを一度この応接室に上げて茶菓子をあげたんです。最初は遠慮してたんですが今日中に食べなきゃ傷む生菓子だけど、私一人じゃ食い切れないから〜と進めたら喜んで食べてくれました。


それで茶菓子を食べ終わった後、坊ちゃんは母親の墓参りがあるからと管理小屋を後にして、この霊園で貸し出ししている掃除用具で坊ちゃん1人で母親の墓石を一生懸命磨いておりました。…え?何故知ってるかって?そこの窓を見て下さい、この窓の正面にある100メートル先の墓石が母親の墓で、私はそこから坊ちゃんが墓石を掃除する姿を見ておりました。


「…確かにひのしたって書いてありますね」

「えっ見えるんですか!?」


兄が窓の外を見てポツリと呟いた言葉に管理人が仰天した。


「ええ鍛えてるもので、両目共に視力3ありますから…」

「えーどれどれー?」

「ほらあの下から2段目で、右側の階段から15番目の左隣に黒い墓石がある、白い墓石がそうです」

「んー?僕には全然見えないなぁー」

「あなた視力幾らです?」

「両目とも1.3で視力良い事が僕の自慢だったんだけどなー…」

「私の半分以下で自慢だなんて片腹痛いですね。カーカッカッカッカッ!」

「そんなに笑わなくっても良いじゃないかー…」

「!?」


兄がワシ以外と話込んで高笑いする所を初めて見た!


「(やはり藍ちゃんとは、兄者と仲良くして欲しいもんじゃのう!)」

「確かに良い夫婦ですね。2人の所なら安心して坊ちゃんを任せられるでしょう」

「「…」」


夫婦の言葉に笑っていた筈の2人の表情が強張り、心做しか空気が若干凍り付いた気がした。…やっぱり嫌じゃったかのう?ワシは慌てて管理人に続きを促した。


「じっ爺さん続き頼む!それで甥っ子は何処に行ったんじゃ?」

「えーっとその事何ですが…私も知らないんですよ」

「「「はぁ!?」」」

「ちょっと待っとくれ!そこの窓から甥っ子の事は見ておったんじゃろ?何で知らないんじゃ!?」

「おい爺ぃ、しらばっくれると叩き斬りま「兄者はちょっと冷静になっとくれ!ほら懐の物をしまって!」

「管理人さんどういう事何ですかー?」

「実は坊ちゃんが墓参りを終わったのを見届けた後、私は坊ちゃんに余った茶菓子を持たせようと、隣の給水所で袋に包んでいたんです」


そのちょっと目を離した間に正面門の方から車のブレーキ音と銃声音が響いてきたんです、私は慌てて正面玄関に向かったんですがその時すでに坊ちゃんは霊園の奥の方に逃げ込んでおりまして…私も坊ちゃんの後を追うも何せこの足ですから、どう頑張っても追い付けませんで終いには階段を踏み外し転げ落ちる始末。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る