4

『―さんに―――があるんだけど――に行って―――を――――――欲しいんだ』


昼食を終えコタロー君の食器を取りに廊下を移動中、影を伝いコタロー君の声が聞こえてくる。誰か部屋にいるのだろうか?私は急いで部屋に向かう。


「コタロー君、部屋に誰かいるんですか?」

「!っ、お姉さんそんなに急いでどうしたの?」

『それでは行ってまいります』

「…熊さんでしたが」


部屋に入ればコタロー君と話していたであろう熊さんがベッドに座っていた、話が終わったのか熊さんがお腹に繋がった充電器を抜き部屋から出て行こうとしていた。


「何故熊さんが部屋に?」

「掃除の最中に充電が切れかかったから充電しに来たんだよ」

『紅菊さん、マスターの事をよろしくお願い致します』

「?」


熊さんの返しに何か違和感を感じる、しかしコタロー君が私の所まで昼食の空食器を渡しに来た事によりその思考は中断される。


「ご馳走様!美味しかったよ!」

「お粗末様でした…コタロー君、これからお仕事がありますのでこれに着替えて下さい」

「…お仕事?」


仕事と聞いて突然コタロー君が表情を強張らせた…どうしたんでしょうか?コタロー君の反応に疑問を感じつつ私は予備の割烹着をコタロー君に渡す。


「この割烹着を着て私の後に着いて来て下さい」

「う…うん、わかった」


コタロー君は私から渡された割烹着を着始める…余りのもたつき具合に手を貸そうかと声をかけるも、コタロー君はそれを静止し何とか着替え終える、背中の蝶々結びが縦になってるのが気になるがまぁ良いでしょう。


「さっこちらです、着いて来て下さい」

「…うん」


コタロー君は顔を強張らせたまま私の後を着いて来る、私はコタロー君を私の仕事部屋に案内すると流し台(高級ホテルなだけあって各部屋に台所が設置されている)に私は持ってきた食器を置き、コタロー君を流し台の前に立たせた。


「今まで1人暮らししてきたって事は家事は一通り出来ますね?」

「うん」

「なら今からこの食器を洗って下さい、食器用スポンジは赤、フライパン用は青、洗剤はこちらをお使い下さい」

「…え?」

「食器は洗い終えたらこの籠の中で水切りをして、あちらに置いてある乾燥機から取り出した衣類を全て畳んでから、こちらの布巾で食器を拭き台所の隣にあります食器棚に閉まって下さい、あとこの水切り籠を洗って元の位置に戻したらコルヴォ様の部屋に来て、私に報告して掃除を手伝いに来て下さい…わかりましたね?」

「…紅菊お姉さん」

「何かわからない事がありましたか?」

「マフィアのお仕事って人を殺したり麻薬を売ったりする事じゃないの?」

「は?」


真剣な表情で何を言い出すんですかこの子は?


「…仮にそうだとしても、子供にそんな事させる訳ないじゃないですか」

「じゃあ僕のお仕事って?」

「私が今までやってた家事をやって貰います、慣れたら事務仕事もお手伝いさせますのでそのつもりでいて下さい」

「僕、銃持って撃ったりしないの?」

「戦闘訓練で味方に誤射するコタロー君には、間違っても渡しませんので安心して下さい」

「…よかったぁーーー!」

「?」


私の言葉を聞いたコタロー君が、盛大に溜め息を吐いて強張らせていた表情を緩ませた。


「何をそんなにホッとしてるんですか?」

「だって僕マフィアに連れて来られてから、悪い事させられるんじゃないかってずーっと不安だったんだもん」


あー良かったと安心するコタロー君に、そういえば最近元気が無かった事を思い出す、もしやずっと不安を感じていたから…?


『あの坊やなーんか危ない感じがするのよね〜。本当は私が側にいてメンタルケア出来たら良いんだけど、職場はちょっと遠い日ノ本軍だし会いに来られるのも最低でも週一位だし…だから紅菊ちゃんが坊やの相談役になってくれる?』




「…コタロー君」

「なぁに?」

「今度から不安になった事は私に打ち明けて下さい、ここのところ元気が無いから心配したじゃないですか」

「!っ!…僕、元気なかった?」

「ええあからさまに…良いですか?病は気からという言葉がある様に負の感情を心の中に押し込めていようとも、知らず知らずの内に滲み出していくものなのです、症状が重くなれば大病にもなりねません…だからそうなる前に吐き出して下さい」

「うん…心配させちゃってごめんなさい」


しゅん、と申し訳なさそうにコタロー君は謝った。


「…まぁ(コルヴォ様が)勝手にマフィアのアジトに連れ込んで怪我をしていたとは一週間も軟禁状態、更に仕事をさせるとだけ伝え詳しい仕事内容を説明しなかった(まぁ何をさせるかはさっき決めたので無理ありませんが)こちら側に非がありますから、謝る必要はありませんよ」

「…そうなの?」


本当は相談事とか苦手ですがコルヴォ様から世話を任された以上、あんまり追い詰め過ぎてアジトから逃走、又は自殺されては適いませんからね…まぁ話を聞くだけでも大分気が楽になると言いますし、多少の弱音は受け入れましょう。


「ええそうです、だからそんな顔をする前に弱音を吐いて下さい」

「…うん」

「私達は友達何でしょ?コタロー君は友達に隠し事するんですか?(まぁ普通は友達にも隠し事は普通にしますけどね)」

「!っ…ううん、わかった!僕もう嘘つかないよ!」

「なら不安な事があったら直ぐに言って笑って下さい、私コタロー君の笑った顔大好きですから笑ってて欲しいんです」

「本当?」

「はい」


私の返事を聞いたコタロー君が笑顔になる、聞き分けの良い子で助かります。


「ではコタロー君、私はコルヴォ様の部屋の掃除がありますので、食器洗いと洗濯物畳みよろしくお願いします」

「はーい行ってらっしゃーい」


私はコタロー君を部屋に残し掃除をするべくコルヴォ様の部屋に向かった。




「そっかお姉さん笑った顔が好き何だ…怖くっても泣かない様に気を付けなくちゃ」




足早に立ち去った私の耳に、コタロー君の呟きが聞こえる事はなかった。




×××




「そういえば鷹一軍曹と鷲三伍長はもし僕がパトカーで追い付かなかったら何で霊園に行く気だったのー?やっぱりバスー?」


巡査部長にパトカーに乗せて貰い霊園に向かう途中、巡査部長に話し掛けられた。


「いや、ワシ等は走ってくつもりじゃったよ?」

「えー?!車で30分の距離だよー?」

「にほん軍じゃあ50キロの積み荷を背負って山を休み無く走れる様な訓練がざらにあるからのう。何せ敵地で呑気に休憩なんかしたら死ぬし、安全確保出来るまで走りっぱなしじゃしその程度軽い軽い!」

「凄いねー、僕なんて1分走っただけで脇腹痛くなっちゃうよー」

「兄者なんかもっと凄いぞ?何せ暗殺兵は忍術を日ノ本軍に取り入れた部隊じゃから、屋根や木々をぴょーんぴょーんと飛び移りながら移動出来るんじゃからな!」

「忍者って鎌倉時代から江戸時代にかけて、大名や領主や殿様に仕えてた夜闇に紛れ敵陣でこっそり忍び込んで、偵察や暗殺をする暗殺集団だったんだよねー、国外で戦争する様になってからにほん軍に取り入れられてから、忍者から名を改めて暗殺兵に変わったんだっけー?」

「いえ、忍術を日ノ本軍に取り入れる際に忍びの里で軍に取り込まれる事に賛成派と反対派に別れ、現代では忍術を使う者が分割され“日ノ本軍に属する者を暗殺兵”“日ノ本軍に属さぬ者を忍者”と分ける為に暗殺兵の名称が作られました」


ワシ等の体格から窮屈だからと、助手席に座って今まで黙っておった兄が話に参加する、珍しい事もあるもんじゃ。


「えー?って事は現代に忍者って存在するのー?」

「それはどうでしょうねぇ、100年前に暗殺兵と忍者に別れて以来忍者の数が減って行き、今では絶えたのか隠居したのか忍者を目撃したとの確認が取れなくなりました」

「たまにテレビで苗字が服部や伊賀の人が、ビックリ人間ショーに出るのを見掛けるけどその人達も忍者なのかなー?」

「…あの程度で忍者と呼んでいる様では、一般人は随分と平和何ですね」

「傷付くなー、鷲三伍長は何で暗殺兵に所属しなかったのー?」

「ワシ?ワシは図体デカくて隠れん坊が苦手での、更に言うなら相手の力を利用するーって言う柔の技が出来んもんじゃから、ただ単に敵を吹き飛ばす豪の技がワシに合っとるから突撃兵志願したんじゃ」

「ふーん、あっ着いたよーカルルス霊園…でも、何でこの霊園で軍人の奥さんの遺体が眠ってるんだろうねー?だってここは…」




マフィアが管理する霊園なのにねー?

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