第11話 兄ちゃん
ワシには2人の兄がいた。
『兄さーん、兄ちゃーん』
同時に産まれたワシ等は三つ子と呼ばれるもんじゃが、ワシ等の家は父は軍曹止まりであり母は病弱じゃったのと、祖父の格闘技を継承する者が欲しかったからという理由で、3番目に産まれたワシは爺ちゃんの家に引き取られる事になって引き離されて育てられておった。
上手くは言えんがワシにとっては双子の兄達と、弟であるワシが同時に産まれたという感じじゃった。
『あっ鷲三!いらっしゃーい』
『ありゃ?兄さんは?』
ワシは爺ちゃん家で育った為、飯をたらふく食べれたワシの体は2人よりもデカくなり、喋り方も爺ちゃんの言葉が移って兄達と似とらんかったが、兄達は髪の色以外はそっくりな外見をしとった。
『兄さんはお母さんにお願いされてお買い物に行ってるの、凄いよねー!兄さん1人でお買い物出来るんだよ?』
『ふーん、兄ちゃんは一緒に行かんかったのか?』
『兄さんにも一緒に行こうって言われたんだけど、僕が着いて行ったら帰りが遅くなっちゃうから、僕は家に残って鷲三を待ってたの!』
『ワシを?』
兄さんは1番目に産まれたからしっかり者で、兄ちゃんはおっとりとした性格で、ワシよりも何処か幼い感じがして兄ちゃんは兄というより弟と言った感じじゃった。
『うん!だって今日は兄弟揃ってお泊り出来る日なんだよ?だから僕達の分の宿題終わらせて早く遊ぼう!』
『あそボー!シュうぞう!』
多分兄ちゃんが弟だと思うのは、兄ちゃんの頭の中に“弟”が存在するからだと思う。
『そうじゃのう兄ちゃん!スパロ!』
周りの者は気持ちが悪いと言う“弟”の存在は、ワシにとっては大切な兄弟の1人じゃった。
―――ぞう
「…うっ」
おいコ――きろしゅうぞ―――
「ん〜…後5分寝かせてくれ〜兄さ「何が後5分だ!いつまで野郎抱きしめて寝てるつもりだこの馬鹿!」
ゴッツン!
「あでぇ!」
兄の声に起こされ、もう少し寝かせてくれんかと頼んだら頭上から固いげんこつが降ってきた。
痛みで一気に覚醒した頭でワシは上体を起こし、辺りを見渡して…気を失う前の事を思い出した。
「…はっ!おい巡査部長!大丈夫か!?」
「う〜…頭は大丈夫だけど、鷲三少尉の巨体で潰されそうだよー…」
「おお!これはすまんのう!」
ワシの体の下に柔らかい感触と声が聞こえて、ワシは慌てて上から退いて巡査部長に手を貸し立たせる。
「あー…あれから10分くらい気を失ってたねー、弟君の家の硝子もパトカーの窓も全部吹っ飛ぶくらい凄まじい音波だったねー」
巡査部長が腕時計を確認しながらそんな事を言うとった…10分も気絶しとったら戦場じゃったら敵兵に好きな様に料理されとったな、単純じゃが恐ろしい能力じゃのう。
「道理で親玉を1人残して部下が全員離れていった訳だよねー、必殺技が及ばない距離で救出の機会を伺ってたんだねー」
「申し訳ありません、まさかこんな切り札があるとは思いませんでした」
「いやいや推理出来なかった僕にも非があるよー、推理の天才も名折れだよねー…!」
困った様に笑う巡査部長はパトカーの方を見て両目を見開く、なんじゃとワシも見てみるとパトカーの横で警官が1人倒れておったからだ。
「枝岡くーん!?」
ワシ等が駆け付けると倒れているのはやはり巡査であった…両耳から出血し両目をかっ開いて酷い形相じゃ、巡査部長が彼の喉元を触れていたが静かに首を振るとポケットからハンカチを取り出し巡査の顔にかけた。
「…死んどるのか?」
「…まさか正義感溢れた枝岡君がこんな事で死んじゃう何てねー…」
「行きますよ鷲三、付き合ってられません」
ワシと巡査部長がまさかの巡査の死にショックを受けとると、兄がそう言ってさっさと歩き出してしまった。
「えっ兄者?」
「私が自由に動けるのは午後3時まで、こんな事に甥の捜索が遅れてはたまりませんよ」
「兄さん!」
「…君にとってはこんな事なのー?」
「ええ軍じゃ敵も味方もコロッと死ぬもんですから1人1人感傷に浸ってたら身が持ちませんよ、私達は甥を探さなければいけないし巡査部長はこの惨状を報告しなくちゃいけないんですから、ここでお別れです」
「…」
「し…しかし兄さん」
「別に鷲三は残ってて良いんですよ、私はもう行きます」
そう行って兄は足早に立ち去ろうとしてしまう。
「あーそのー…っすまん巡査部長!ワシももう行くわい!」
ワシは罪悪感を感じながらも、同僚の死に涙ぐむ巡査部長の頭を撫でてから兄の後を追った。
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