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「目撃者なんでやんす!」


部下の叫びに近い言葉に、私は首に当たる寸前でスコップを止めた。


「目撃者?」

「そ…そうでやんす、お願いしやす!全部話しやす!!洗いざらい全部話しやすから親分に酷い事しないで下せぇ!!」


そう言いながら部下は、涙を流しながら土下座した。


「…ちぃとやり過ぎたかの?」

「敵に情け何て必要ありませんよ」

「あ…あっし達ナイヤファミリーは、マフィアの中でも構成員10人だった弱小ファミリーなんでやんす」


部下は頭を下げたまま涙声で言葉を綴り始める。


「抗争で真っ向勝負では常に負け続き…しかしあっし達は根性で相手を降参させ、何とかマフィア中に名を知らしめる事は出来ても“しつこさだけは蛇の様だ”と余り嬉しくない知名度に、親分は名を上げる為にある人物に暗殺を仕掛けたんでやんす」

「ある人物?」

「“闇鴉”…奴は数年前に突然マフィア界に現れ、圧倒的な強さで数ヶ月でマフィア界中に名が知れ渡りやした、しかもどうやったのかは知りやせんが、所属していたボスの信頼を得て入団した際に一足飛びで幹部の座に就き、ボスが死去した後はそのままボスの地位に…もしそんなすげぇ奴を倒したとなれば、ナイヤファミリーの名も上がると親分が目を付けたんでやんす」

「…」

「闇鴉は月に一度、誰の墓かはわかりやせんが墓参りに行くと情報を得て、そこを待ち伏せしてファミリー全員で一斉攻撃しようって話になったんでやんす」

「(一斉攻撃って…暗殺の意味わかってんのか、この馬鹿共)…で?その暗殺と甥が何の関係があるんです?」

「闇鴉が霊園に入ったのと一般人がいない事を確認して、裏門と正門を車で閉鎖して出入口を塞いで袋の鼠にした所を、正門の車から親分が先頭に特攻仕掛ける作戦だったんでやんしたが…作戦決行直前に、親分が腹を下したのがガキを巻き込んじまった原因なんでやんす」

「は?」

「多分正門を塞ぐ予定の車で近場のトイレに向かった最中に、ガキが霊園に入っちまったみたいでやして…親分が『便所の間に闇鴉が霊園を出ちまうかも知れねぇ!出すもん全部出したらすぐ駆け付けるからお前等だけで、作戦開始しろ!!』と命令されて、急いで正門を塞いで霊園に乗り込んだら目の前にそのガキがいて…勿論一般人は巻き込まない様に、配慮はしたっすよ!しかし間が悪かったというか何というか…」

「「…」」


私は足元で気まずそうに視線を逸らす男を、軽蔑の眼差しで見下す。


「…つまりこいつが体調管理を怠ったせいで甥が巻き込まれた上に、暗殺が失敗しその原因を甥のせいにして、迷惑料がどうのこうの騒いでたんですか?」

「へ、へぇそうなりやす」

「…」


ゴスッ!


私は男の腹部を蹴り上げ、爪先を減り込ませる。


「んぐぅ!」

「!」

「あっ兄者?!」

「何処が“完璧な計画”だ!てめぇの下痢糞で台無しにしといて、余所様のガキに八つ当たりしてんじゃねーよ!!」


ガスッ!!


「んぐぅう!」


ゲシッドスッゴスッガッゴキッゴスゴスゴス!!


「兄者!相手はギブス巻いとる怪我人じゃぞ!」

「止めてくだせぇ!蹴るならあっしを蹴ってくだせぇ!!」


男を蹴り続けていると、部下が私の足に縋り付き鷲三も、慌てて私を羽交い締めにし動きを妨げてくる。


「あっそうじゃ甥っ子!まだ甥っ子の事聞いとらんかった!ほら兄者甥っ子の事聞かんといかんから、その辺にして…」

「…」


私はこれ以上蹴られたくなければ、さっさと話せと部下を睨みつける。


「えっと…正直に言うとガキの行方は知りやせ…あっ話は最後まで聞いて下せぇ!作戦開始当初、あっしは親分と一緒に正門に留めた車から攻め込む手筈でやした」


武器を手に取り霊園に攻め込もうと後部座席の扉を勢い良く開けたら、ビックリした表情で俺達を見るガキがいやした…一般人がいる筈が無いのに何故ガキが?って考えているとガキは悲鳴を上げ、霊園の奥の方に逃げ込んで行ったんでさぁ。


巻き込んだ以上は、目撃者は消すのがマフィアの掟とまずはガキを始末しようとした瞬間、目の前に闇鴉が現れてあっという間にやられちやいやして…恥ずかしい限りで、あっしは一撃でやられちまったんでやんす。


まぁ闇鴉相手に常人が敵うはずがないから、しょうがないといやぁしょうがないんすけどね…闇鴉にやられた後、余りの痛さにその場でうずくまっていたんでやしたが、このままじゃ親分に申し訳無いと痛む体を引きずって闇鴉を追って、霊園の奥に行ったんでやしたが…その時、銃声が聞こえたんでやんす。


パーンって弾ける音と、ガキの名前を呼ぶ『光太郎!』と誰かの叫び声…


グシャアッ!!


『うぐぇっ!』


そして続く様に聞こえた、何かを叩き潰す様な音と仲間の絶叫。


あっしがそこに駆け付けた時に見たもんは、階段の下で倒れているガキの側で座り込む闇鴉。


そしてその側等にあった、仲間の死体。


辺りに血溜まりが出来ていて、その真ん中で仲間が俯せで倒れていて、すぐ近くで切断面が柘榴みたいに弾け飛んだ、そいつの右腕が転がっていやした。


「あっ…あっしはそれを見て殺される!って怖くなって、親分がいる霊園の外のトイレまで走って逃げたんで、その後ガキがどうなったのかは、本当に知らないでやんす!」

「…?(ん?何か今ひっかかるものを感じたが…何だ?)」

「ん?おお坊主、大丈夫か?」


何に対しひっかかったのか、部下の言葉を反芻していると鷲三の声が思考を遮った、後ろを見るとガキが起き上がり、こちらに歩いてくるのが見えた。


「あー気持ち悪…俺様の天才な脳みそに傷付いたら、どうしてくれんだよ…これ、サンキュ」

「おお、わざわざすまんのう」


ガキが鷲三に上着を渡す姿を見ていると、後ろで砂を蹴り駆け出す音が耳に入る、音の方を見れば部下が私達の所から逃げている姿が目に入った。


「あっ逃げた!」

「どうする兄者、追うか?」

「いや…こいつがいる限り遠くへは逃げないでしょう。部下達が救出しに来た所を逆に一網打尽します…それよりも、なんで子供が訓練所サボってこんな所にいるんですか?」


私が睨みつけると、ガキが一瞬怯えた表情をするが私を睨み返してきた。


「ふん、どーせ今日は始業式で頭も内容も空っぽの大人の話聞いて、夏休みの課題提出するだけだろ?」

「何を言うとる!始業式に提出する宿題を忘れて、先生にゲンコツ喰らうのが夏休み最後の風物詩じゃろ!」

「(何で天才のこの俺を差し置いて、こんな奴が賞賛されるんだろう…)」

「ん?何ワシの顔に何かついとるか?」

「いや、コタローと良く似たアホ面だと思っただけだよ」

「おお嬉しい事言ってくれるのう」

「アホ面言われて喜んでんじゃねーよ」


でっかい方のおっさんは俺の皮肉に気付いてない感じだったけど、少し背の低い方のおっさんは気付いたのか、デカい方のおっさんに辛辣なツッコミを投げかけた。

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