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俺様の眼前に脳みそをシャッフルされ、倒れ伏すガキと忌まわしき軍人が1人…俺様は込み上げてくる笑いを抑えず、気持ち良く笑い声を上げる。


「ガ〜ラガラガラガラ!どうだ俺様の“脳震音波”の聞き心地は?脳みそを揺さ振られる、素晴らしき音色だろ?」


“脳震音波”


それが俺様の能力だ。


俺様の発した音波を聞いた者は、直接脳みそを揺さ振られ吐き気・頭痛・めまいを引き起こし、最悪失神する指一本触れずに相手を倒す無敵の能力だ!俺様は目の前で蹲る大男の前まで歩み寄る。


「へっざまぁねぇな、そーんなムキムキに鍛えて凡人共を薙ぎ払ったって、たった1人の能力者の前じゃこのザマだ、幾ら鍛えたって能力者との力差が覆る事はねぇ…なのに何で能力者は一等兵より上の階級にはなれねぇのに、こうして転がってるてめぇが伍長なんだ?可笑しいだろ…ん?」


俺様は銃口を軍人の後頭部のど真ん中に標準を当て引き金に指をかける、だが軍人が声をかけられ中断された。


「…ぬ、し」

「あ?」

「もし…や、もと…軍人…か?」

「…」

「悪いこたぁ言わ…ん、大人しく…軍に戻れ…おぬし…存在しなくなる…ぞ」

「…もうねぇよ」


俺様は更に詰め寄りマシンガンの銃口を大男の後頭部に押し付ける。ここまで近けりゃ利き手じゃなくても外さねぇ、引き金に指をかけ力をこ め た?


一瞬の内に視界が反転、勢い良く地面に俯せに倒れ伏した衝撃で、骨折した右腕に激痛が走る。


「ぃ゛っでぇ゛ぇ゛え゛え゛え゛っ!!」


右腕から全身に走る激痛に思わず叫び声を上げていると、俺様の背中に誰かがのしかかった。




×××




「…おお兄者、相変わらず鮮やかな手捌き」


私は頭を抑えながら立ち上がる鷲三を見据えながら、下にいる男のマシンガンを取り上げ両腕を縛り上げる。


「今あなたの腕を縛っているのは切れ味の鋭いワイヤーです。暴れようものならギブスで覆われた右手はともかく、左手首が切断されますので大人しくしていて下さい」

「いででで!わかった!わかったから右腕に触んじゃねぇ!!いでででででで!!」

「あ〜…二日酔いよりも酷いぞこれ、頭がグワァングワァンする」

「何で能力者だとわかった上で、無防備に突っ込んで行ったんですか?」

「いや〜…チビがおるからここは安全策をとって、わざとワシが倒されてこやつの隙を作って、兄者に倒して貰おうかな〜って思ってのう」

「…(もしこいつの能力が爆破系だったり、私が押さえ付けるより先に引き金引かれたら、どうするつもりだったんだ)」

「なっ…何でてめぇは無事なんだよ」


ふらつきながらガキの所に歩み寄る鷲三の背中を見ていると、男が私を睨み付け疑問を投げかける。


「何でって…あなたの部下が距離を置いた後ご丁寧に両耳塞いでしゃがみ込んでいるのを目撃しましてね、“音”関連の能力だと検討を付けた私は部下達と同じく、両耳を塞がせて頂きました」

「なっ!」

「さっあなたの能力が声だとわかった以上、その口を塞がせて頂きますね」

「んぐっ?!」


私は男に猿轡をした上で、厳重に口元を塞いだ。


「おう坊主、大丈夫か?」

「ぅう〜…き…きぼじ、わ゛る゛い゛」

「吐きそうか?無理に我慢せんでも吐いてもええんじゃぞ…兄者!救急車呼んだ方がええかの?!」

「至近距離で食らったあなたがピンピンしてるんですから一時的なものでしょう、そこら辺に転がして起きなさい」

「そ…そうかのう」


納得のいかない様子で鷲三は周囲を見渡し、一本の大木を発見するとふらつきながら木の下に行く、一体何をしてるんだと眺めていると日陰になっている地面に肩に羽織っていた軍服を広げると、ガキのもとに駆け寄り広げた軍服の上に寝かせ始める。


「ちょいと狭いが土の上よりかマシじゃろ?よしよし具合良くなるまで、大人しく寝とるんじゃぞー」

「本当にあなたは世話好きですねぇ、良くも見ず知らずのガキにそんな親切に出来るもんだ」

「子供は大人が守らんといかんからのう、それに甥っ子の友達じゃし無下には出来んじゃろう」

「そうですか…それではその甥の事であなた方に聞きたい事が山ほどあります。武器を捨てて大人しく出て来なさい」


そう言って私は男の首にクナイを突きつけながら雑木林を見る、少しすれば男の部下の1人が出てきた。


「(残りは逃げたかそれとも…)さて喋れないこの男の変わりに答えて頂きます、まずはこの男がペラペラ喋っていた甥が邪魔したという“完璧な計画”は一体どういうものだったんですか?」

「…」

「あなたに黙秘権はありませんよ」

「…」

「…鷲三、ちょっと見張ってて下さい」


私はだんまりを決める部下に軽く溜息を吐き、鷲三に見張りを頼むと近場にある物置に向かう、中を物色していると奥の方で目的の道具を見つけ、それを手に取り男達の所に戻る。


「その腕のギブス、骨折したんですか?一体どういう経緯で骨折したのかは知りませんが、貴方は運が良いですね…だって“完治出来る箇所”何ですから」

「?」

「手足ならば腕だろうが小指だろうが、ギブス嵌めて固定すれば数ヶ月で元通りくっつく事が可能です。しかし体の中にはヒビどころか歪んだだけでアウトな骨があるんですが、それがどこかわかりますか?それは脊髄です」


私は手にした大きめのスコップで、男の腰を撫でる。


「ここの脊髄が歪めば下半身不全になり歩行が不可能となります、それでは…ここの骨が歪んでしまったら、どうなると思いますか?」


私はスコップで男の首の後ろにある大椎を軽く小突く、男はこれから私がやろうとする事に気付いたのか、猿轡の中から悲鳴を漏らし必死に拘束を解こうともがき始める。


「鷲三、ちょっと頭が動かない様に固定してて貰えます?」


私は地に伏す男を座らせ斬首する姿勢にさせる、鷲三は男の前に座り込み男の頭を両腕でしっかりと固定する。


「もし私の使用するものが刃物だったら一瞬の死で終わるでしょう、しかし今私が使用するのはスコップですからねぇ…運が良ければ死ねるでしょうが、運が悪ければ死ぬまで起き上がる事も出来ない、寝たきり人生を送るんでしょうね」


私は両腕でスコップを構え頭上に掲げ…そして渾身の力を込め、勢い良く男の首目掛けて振り下ろした。

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