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住宅街を少し離れた先に住宅街と雑木林を分断する様に、川(川と呼ぶには綺麗に整備されてるから水路と言った方が正しいかもしれない)が流れている。川を跨ぐ様にかかる橋を渡り、雑木林を抜けた先にコタローの家がある。大きく盛り上がったデコボコな石畳の道を、転ばない様に小走りで走ると開けた場所に出た。
高い石ブロックの塀の変わりに雑木林が塀変わりになっていて、外からでは中の様子は伺えないけど、中に入れば円を書く様に広い土地がありその中央に一軒家が見えた。
「…コタローの親父マジで、偉い軍人だったんだな」
この密集したにほん人口の中で一軒家で、しかも一キロも土地がある何て金と権力がある奴だけだ。とは言ってもコタローの家は華族みたいに2階建てのプールのある庭だ何て事は無く、生活に必要な風呂とトイレと台所、後は家族3人分の三部屋しか無い。一階建ての金持ちと言う割には少し狭い家だった。
「(上の下…いや中の上?何か中途半端何だよなぁ、何ででっかい家建てる訳じゃねーのに、こんな広い土地買ったんだろう)」
俺の家でも少し広い家とは言えアパート暮らしだ、三部屋しか無いのに母さんと父さんで一部屋で俺が一部屋でそして兄貴達3人で一部屋…ああ一番上の兄ちゃんが来年春に軍に就職したら、絶対寮暮らしすんだって毎日言ってたっけなぁ。
そんな事を考えながら俺は玄関の前に立つ、チャイムを押そうとして…俺はチャイムを押すのを躊躇する、だんだん心臓がドキドキしてきて、チャイムを鳴らすのが怖くなってきたんだ。
「(これ押したらコタロー出てくるんだ…どうしよう。あいつどんな顔で出てくるかわかんねぇ…怒ってるかな?…いやあいつが怒ってる顔何て想像出来ねぇ…まさかいつもみたいにヘラヘラ笑っておはよーって言ってくるのか?いやそれはねぇだろ…ねーのか?)」
『マスター、ドウシタノデスカ?チャイムヲ、オセナイノデスカ?』
「あ…ああ」
『ナラワタシガ、オシマス』
「えっ!?」
ピンポーン♪
悩んでいるといつの間にか兎が、玄関脇の柱を登っていてチャイムを押していた、俺は急いでその場から走り出した。
『マスター、ドコへ!?』
俺は茂みの中に身を隠し玄関を眺める、まだ心の準備が出来てないのにチャイムが押され、いつ玄関の扉が開くか心臓が爆発しそうだった。
「(兎のアホーーー!ええい押しちまったなら仕方がない!コタローが出て来たら先制攻撃だ!あいつの足蹴っ飛ばして、ずっと姿見せなかった罰に鞄投げつけてやる!そんであいつが呆然としてる所を、遅刻しそうだって言って走り出して走ってる時に謝って………?)」
チャイム鳴らしてからだいぶ経つのに全然出てくる気配が無い、その間に鼓動が落ち着いて少し冷静になった俺は玄関に近寄りチャイムを鳴らす、一度鳴ってしまえばチャイムを押す事に躊躇がなくなっていた。
ピンポーン♪
「…」
俺はそっと玄関に耳を近付けてみる、しかし家の中は静かで物音1つしなかった。
「…」
ピンポーン♪
もう一度押してみるが結果は一緒だった。
「…コタロー?いねーの?」
玄関に設置されている新聞入れを開いて、そこから家の中に大声を出して呼び掛けてみる、でも返事が返って来る事はなかった。
「………え?あいつもしかしてもう訓練所行っちまった?」
俺は家の裏側へと周り込んでみる、そこは洗濯物を干すスペースで草が生えない様に硬い土で敷き詰められていて、物干し棹にはコタローの服が数枚と大きなシーツが干されていた、俺はそれの後ろに隠れながら窓を覗き込みカーテンレース越しに、家の中の様子を伺ったがやっぱり誰もいなかった。
「何だよ!俺が直々に迎えに来てやったのに、1人でさっさと行く何て…やっぱり怒ってるのかな…ん?」
隠れる際に触れたシーツの感触に違和感を覚える、干されているシーツは早朝にも関わらず乾いていたのだ、他の衣類にも触れてみると、やはり全ての洗濯物は乾いていた。
「何だ?もしかして昨日から干してたのか?」
『マスター、ドウシタノデスカ?』
洗濯物を眺めていると足元から兎に声をかけられる、兎を見ようと視線を降ろすと…俺の背筋は凍り付いた。
『マスター?』
「…」
見下ろした先でシーツは泥塗れになっていた、まるで雨で泥が跳ねたかの様に…確か一週間前に雨が降って以来、晴天続きだった筈だ。
「…兎、お前今すぐ中訓練所に行ってI組にコタローがいるか見てこい」
『エ?ナゼデスカ?』
「良いから早く!お前には盗まれた時に自分で帰ってこられる様に、ここら一帯の地図をインプットしたから行けるだろ!?」
『…リョウカイイタシマシタ』
「いいか!第3訓練所の2年I組だからな!間違えるなよ!?」
頭の良い俺はそれを意味する事実に気付いてしまう、でも結論を出すのはまだ早いと自分に言い聞かせながらも、兎を見送っていると勝手に視界が揺らいできた、俺はそれを拭いながら苦しいぐらい激しく動く心臓を、落ち着かせる為にその場にうずくまった。
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